フクダ電子アリーナ 10th Aniversary

REPORTERS記者が語るフクアリ

REPORTER02

世界一のスタジアム

西部 謙司

仕事がら、世界中のさまざまなスタジアムに行く

レアル・マドリーの本拠地、サンチャゴ・ベルナベウは世界一「暖かい」スタジアムだ。以前はPSVアイントホーフェンのフィリップス・スタディオンが世界一だった。おそらく電気ストーブを屋根に付けた最初のスタジアムだろう。さすが家電メーカーのお膝元と感心したものだが、いつのまにかベルナベウにもストーブが付けられていた。そして何とこちらのほうが暖かかった・・というより正直暑かった。スペインでストーブとは思わず、厚着してきてしまったのだ。

世界一「奇妙」だったのは、イスタンブールのイノヌ・スタジアム。ベシクタシュの創立100年の試合で行った。とにかく凄い熱気なのだが、それがとぐろを巻くように暴走している。レイブ感がハンパない。観客席で試合そっちのけにバンバン花火を上げるわ、ゴール裏とVIPのテラス席の間で物が飛び交う、二階席から人が落ちる、ネコが試合中に入ってくる・・さすが専用スタジアムは迫力があるなぁ・・と思っていたが、よく見れば陸上トラックがあるではないか。とてもコンパクトでフィールドが近いのに陸上までできるのか! しかし、数えたら3コースだけ。何のためにあるのか??

世界一「古くさかった」のが、フランスのオセールにあるラベ・デシャン。当時人口が4万人の街に収容4万人のスタジアムというのも奇妙だったが、これがメチャメチャ古い。記者席の机も椅子も木製、しかもひと続きのベンチで固定されている。つまり、一番奥の壁際に座ったが最後、隣から通路にかけてずらりと並んだ人々が全員席を立つまでは一歩も動けないのだ。屋根はあったが、これも木製。トイレも見つかったのは1つだけで、しかも1人しか使えない。それでもチャンピオンズリーグの試合をやっていた。試合が終わってふとスタジアムの隣を見ると、けっこう立派なユースのトレーニングセンターがあって、もう夜中なのに練習していた。オセールはいわゆる育てて売るクラブ、なるほどお金をかける場所が違っていたわけだ。

フクダ電子アリーナも世界一のスタジアムである。

フクアリは僕にとって世界一「近い」スタジアムだ。当然のごとく世界一行きやすく、親しみのあるスタジアムでもある。世界中に素晴らしいスタジアムはたくさんあるけれども、それはテレビで見る世界遺産みたいなもので、生きているうちに1度行ってみたい気もするが、まあ行かないままでも差し支えない。ミシュランの三つ星レストランも気になるけれども、これもたぶん行かない。それより月イチで行く定食屋のほうが、ずっと大事だったりする。ネットでネコの動画をよく見ているけれども、やっぱり我が家の雑種ネコが一番かわいい。

世界中の名だたるスタジアムには悪いが、僕にとって価値があるのはスケールでも豪華さでも伝統でもなく、「近さ」である。愛情と愛着と、たくさんの思い出が刻まれた場所だ。だからフクアリは世界一のスタジアムであり、世界のどんな場所にも代え難い。

西部 謙司