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#93

「サッカーは楽しい。」風間宏矢

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#93 サッカーは楽しい。

いいことも、あったんですけど

昨シーズン、風間宏矢はその傑出したサッカーセンスでチームを救った。
その矢先の大ケガ。アクシデントも加わって、一時は恐怖心に苛まれた。
今、改めてサッカーが楽しい。彼を必要とする時期は、必ずまた来る。
インタビュー・文=細江克弥
取材日・2025年3月14日




―― 宏矢選手、おつかれさまです。

おつかれさまです。お待たせしてすみません。

―― いやいや、ぜんぜん。おつかれさまです。

細江さん、今年になって会うの初めてですよね?

―― あ、そうかも。

あけましておめでとうございます(笑)。

―― これはこれはご丁寧に。なかなかない始まり方で、なんかいいですね(笑)。

はは(笑)。そうっすね。

―― いよいよ全体練習に合流したと聞いたので、これはきっとこのタイミングで喋りたいことがたくさんあるんじゃないかと思ったんですけど。

あー、ありがとうございます。何でもお話しします。全体練習に完全合流したのは2日前のことで、それまでは1週間くらい部分合流みたいな感じで。

―― どうですか? ケガの具合は。

もう完全に元どおりに、ってことはぜんぜんないんですけど、自分が思っていた以上にリハビリの過程で「こんなに変わるんだ」と実感できていて。今はもう、1日ごとに動きやすくなっているので、自分自身が驚いているところなんですけど。

―― 「変わる」というのは、具体的に何がどう変わる?

僕の場合はアキレス腱なので、シンプルに可動域がぜんぜん違うんですよね。日ごとに。初めてジョギングした時なんて本当にガチガチで、クッションになってない感じで。そこからリハビリをする過程で少しずつ広がりが出ていって、強度が上がるほどそれが拡大していく感じです。自分自身の感覚を、日々アジャストさせていく感じなんですけど。

―― 使うほどに使えるようになっていく感覚というか。

それを日々実感しているんです。

―― ほー。すごい。すごいですね。

ホントに。人間の身体って本当にすごいと思いますよ。

―― ケガをしてしまったのが9月のブラウブリッツ秋田戦で、あの時期は風間選手のパフォーマンスによってチームがもう一度上向くという流れがあったからこそ、感情的にも思うところがあったと思うんですけど。

いや、感情的には「しょうがない」という感じでした。バチンとなった瞬間に「うわ、俺か~」と思って。「ここで来るか」と。何しろそれまで大きなケガをしてこなかった人生なので、いろいろな痛みがあることはもちろんなんですけど、僕の中ではそれによって「休む」という選択肢を小さい頃から取ってこなかったサッカー人生で。

―― なるほど。なんとなく想像できるというか(笑)。

他の人なら休むようなケガでも平気でプレーし続けてきたサッカー人生だったんで、こういう“どうしようもないケガ”に直面したことが初めてだったんですよ。それこそ手術なんて初めてだし、プロになってからも離脱している期間というのがほとんどなかったので。だから、「俺か~」という感じだったんですよね。

―― そっか。宏矢選手のキャラクター的にも「なんで?」という感じじゃなく、あっさり受け入れる感じだったというか。

そうですそうです。「しょうがないから休もう」と思ったのと、それと同時に、チームに対してめちゃくちゃ迷惑をかけてしまったなと。選手はピッチに立てなければ価値がないと思っているので、その点でめちゃくちゃ申し訳なかったし、あのいい流れの中で水を差すようなことをしてしまったなと。もちろん、それは自分がスタメンで試合に出ていたからということじゃなく、ベンチにいたとしても流れを変えられる可能性だってあっただろうし。チームとして戦う上で、ひとつの選択肢を減らしてしまったことに対して申し訳なかったなと。

―― 個人がどうこうじゃなく、あくまでチームに対して。

それしかないですね。個人のことだけで言えば、これだけずっとやってきたからこそ「休もう」と思うだけのことなので。

―― きっとそう考えているだろうなと思っていたんですけど、少し経ってから(鈴木)大輔選手と話した時に「実は宏矢のほうがずっと大変で」という話を聞いて、びっくりして。

そうなんですよ。ケガをした瞬間のマインドはさっき言ったとおりだったんですけど、その後に手術したアキレス腱が感染症を引き起こしていることがわかって。というのも、なかなか抜糸できない状態が続いていたんですけど、ようやくできた抜糸後のある日、自宅で見たら傷口が開いていて。自分は本当に無知だから「開いちゃってるな」くらいの感覚だったんですけど、次の日にクラブハウスに行ったら「今すぐ手術」と言われてしまって。

―― 再手術になってしまった。

はい。自分は事の重大さをまったくわかっていなかったんですけど、入院中にいろいろな説明を受ける中で本当にゾッとするような話をたくさん聞いて。元スペイン代表のサンティアゴ・カソルラっていたじゃないですか。

―― そっか。カソルラもアキレス腱でしたね。

彼は同じ感染症でアキレス腱が8センチも溶けていたみたいで。

―― 怖すぎる。

やっぱり、どんな手術も簡単じゃないんですよね。僕の場合はその感染症がアキレス腱に届いていなかったので大丈夫だったんですけど、本当に紙一重の話で。正直、あの時は「またサッカーがしたい」なんて思えなかったんですよ。ちゃんとした生活を送れるのかどうかが不安だったし、ちょうど子どもが生まれたばかりのタイミングで、そのストレスと申し訳なさでいっぱいでした。

―― そうだったんですね……。いやあ、とんでもないことにならなくて本当に良かった。

本当に。しかも、あの時は正常に戻れるかどうかに対して不安だったんですけど、結局、今となっては“アクシデント前”の見込みとまったく変わらない感じで復帰することができていて。だから、今の気持ちとしてはむしろ「早いな」という感じなんですよね。いや、しかし、細江さんはわかると思うんですけど、俺って何があっても落ち込むタイプじゃないじゃないですか。でも今回は、さすがに「マジかよ」と思いましたね。

―― 起きてしまったことに感情を揺さぶられることを“ムダ”と感じる風間宏矢も、さすがにね……。

はい(笑)。でも、いいこともあったんですけどね。

―― というと?

そこからの3カ月間、抗生剤の点滴と内服薬だけだったんですよ。だからユナパにもぜんぜん来てなくて、基本的には自宅と病院の往復で。だから、赤ちゃんと過ごす時間がめちゃくちゃ長かったんですよね。それがめちゃくちゃ楽しくて。

―― そこに救われたってことですね。

そうなんですよ。でも、子どもが生まれた時にみんなから言われたんですよね。「マジでケガするよ」って。それはサッカー選手の“あるある”として「神様が子育てしろと言っている」という話なんですけど、結果的には自分もそうなってしまったので、まあ、ポジティブに捉えるしかないかなと(笑)。

#93 サッカーは楽しい。

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