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#99

「変われば、勝てる。」カルメレ トレス監督

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#99 変われば、勝てる。

新しい守備の感覚

―― そうした哲学をお持ちのカルメレ監督が日本に来て、ジェフ千葉レディースというチームと向き合って、技術的には決して「日本で一番うまい」わけではない彼女たちに対してまずはどんなところからアプローチしたのですか?

2つあります。守備と攻撃でそれぞれ1つずつ。まずは守備に対する考え方を理解してもらうところからスタートしました。

チームの基盤を作るためにも、しっかりとしたブロックを組んだ守備を構築する必要があります。これができれば、ボールを奪った時にもしっかりと組織がオーガナイズされた状態が保たれているので、良い状態で攻撃をスタートすることができる。シンプルかつ安定した守備を構築することはチームの自信につながります。だから、まずは「安定した守備とはどういうものなのか」についてミーティングやトレーニングを通じて伝えました。もちろんそれは、これから先もずっと続けていかなければなりません。

攻撃については、自分たちの良さがある反面、おっしゃるとおり技術的にも戦術的にもまだまだ足りないところがあります。それをしっかりと理解すれば、それぞれ特徴の違う相手に対して「自分たちになら何ができるか」を見極めることができますよね。その週の対戦相手に対して「自分たちなら何ができるか」というアイデアを落とし込みながら、リーグ戦と対戦相手の流れに合わせて、少しずつ“できること”を増やしていく。そういう感覚でチーム作りを進めています。

シーズンが始まる前から「私たちの攻撃に必要なのはこれとこれとこれで……」と“やるべきこと”を決めつけることはしません。チームにとっての上積みははっきりとしたターゲットに対するアクションを繰り返してこそ得られるものだと思っていますし、そうやって手に入れたものにこそ大きな可能性が秘められていると思います。

チームは現時点でもいい変化と進化を見せていると思います。最終的にどのレベルまで進化できるかはわかりませんが、もっともっと流動的なポジションチェンジによって見たことのないコンビネーションが生まれるような、そういうスタイルの完成に向かっていきたいと考えています。未知であるからこそ私自身も楽しみにしていますし、今は「行けるところまで行こう」という気持ちで向き合っています。


―― 今シーズン初勝利となった第3節マイナビ仙台戦では、まさに強固で安定した守備ブロックが勝因となりました。日本人選手の特性として、ある程度ルール化された守備の構築については比較的落とし込みやすいのではないかと思うのですが、そのあたりの感触はいかがですか?

あえて率直な感想を言わせていただくと、思ったよりも苦労しましたし、時間がかってしまったという印象です。それはジェフ千葉レディースの選手たちの問題というより、日本のフットボールにおける守備の文化というものが、スペインのそれとはまったく違うものであることが大きな理由のひとつであることに気づきました。

端的に言えば、日本のフットボールにおける守備の考え方は、そのほとんどが「プレス! プレス! プレス!」「ゴー! ゴー! ゴー!」というものですよね。おそらく育成年代からとにかく前に対して矢印を向けるようにな守備が主流にあるので、ほとんどの選手の頭の中に根付いてしまっているのでしょう。

守備の方法論はそれだけではありません。だから「今は行かなくていい」「ここは我慢するべきところ」という守備の考え方を繰り返し伝えて、選手たちに理解してもらうまでには思っていたよりも時間がかかりました。ただし、“理解してからの表現”についてはかなりスピーディーだったと思います。これも日本人選手の特徴であると思いますが、他者の話に耳を傾けようとする能力は本当に高い。

試合になると没頭し過ぎるあまりついついボールを追いかけてしまう選手もいるのですが(笑)、約20年もの歳月をかけて培ってきたものが簡単になくなるはずがありません。だから私は、そのたびに丁寧に伝えながら、少しずつフットボールの新しい捉え方についての理解を深めてもらいたい。私、あるいは私の話す内容に対する信頼感を持ってくれているという実感はあるので、文化の違いはあれど、日々のトレーニングによって少しずつ前に進んでいると感じています。私自身がカルチャーの違いに直面しているように、選手たちもまた、私の指導を通じてカルチャーの違いに直面しているのですからすぐにうまくいかなくても仕方ありません。

伝えたいことはまだまだ山ほどあるんですよ。今、彼女たちに伝えていることは本当に“基本中の基本”ばかりですから。