昔はぜんぜん違いました
持ち前のテクニックで時間を作り、決定的なラストパスで決定機を演出する。
淡々と仕事をこなす彼は、ピッチの上で何を考えているのか。その思考に迫った。
インタビュー・文=細江克弥
―― 宏矢選手、よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
―― 手、大丈夫ですか?
いや、まあ何とか(笑)。そこそこ痛いんですけど、プレーは続けられると思います。
―― 良かった。ここのところようやく、風間宏矢という選手の価値をしっかりと示すパフォーマンスを表現できていると思うんですけど、まずは昨シーズンのことから聞いてもいいですか?
はい。お願いします。
―― シンプルにどんなことを考えながら過ごした1年間だったのかなと思って。
ジェフに加入する前からいろいろな話を聞いていたし、極端に守備的な戦い方をするチームであることもわかっていました。だから、自分の中では「そこに、あえて」という感覚でした。10年以上のキャリアの中でいろいろな監督とやってきたんですけど、今の自分の感覚として、その監督のサッカーが「自分に合うか合わないか」はそんなに気にならないんです。気にならないというか、気にしてもあまり意味がないと思っていて。
―― なるほど。
いい歳にもなっているんで、「このサッカーだからできない」とか、そういう感覚が今の自分にはないから。だから“あえて”飛び込んで、あくまでチームの一員としていかに自分の良さを発揮するかを考えていて。まず、「言われたことをやる」というのは当たり前にやるタイプの選手だと思っているので、だから、そういう意味では昨シーズンも想定どおりの1年でした。
もちろん、「個人的に充実していたか?」と聞かれれば、数字的な部分を比較しただけでもそれまでのシーズンと並べればもの足りないと思います。でも、自分の中ではそれも想定内。最後はちょっとケガをしてしまったのでそこだけは残念でしたけれど、全体としては昨シーズンも自分にとって意味のある1年だったと思っています。
―― 宏矢選手がそういう感覚でサッカーと向き合っていることは、試合後のミックスゾーンで少し話をする程度でも伝わってきました。結果に対する原因を“戦い方”やほかの外的要因に求めないというか。でも、昔からそういう考え方だったんですか?
いや、昔はぜんぜん違いました。むしろ「なんだよこのサッカー。超つまんねえな」と思うタイプでした(笑)。
―― たぶんそうですよね。そんなこと言ったら失礼だけど(笑)。
考えるようになったはFC琉球に行ってからです。兄ちゃん(宏希)と久しぶりに一緒にプレーすることになって、それがきっかけで。
やっているサッカーに対して「つまんねえな」と言っていた時期って、自分の中で「足りない」と感じていたプレーから逃げていたんですよね。現代サッカーで自分の好きなことだけやってピッチに立てる選手なんていないんで、もちろん僕自身もそこまで偏った感じではなかったんですけど、ただ、それでも“できないこと”から逃げていたことは間違いなくて。
で、ある日、兄ちゃんに言われたんですよ。「お前、“これ”をやるだけで見られ方がぜんぜん違うぞ」と。言われたとおりにとりあえずやってみたら、自分でも「確かに」と思えたし、周りの評価や見られ方もぜんぜん違うものになったことがわかって。そのあたりから、とりあえずやってみる、何に対してもトライしてみることの大事さを知りました。そうやって“言われたこと”の受け入れ方というか、自分なりに噛み砕いていい方向に解釈する方法を持てるようになった気がしていて。
―― だから、提示されたものを疑うところからスタートさせない。その中で自分にできることを見つけていく。
そうです。そういう考え方に気づいたのが今から4年前くらいのことで、ちょっと遅いんですけどね。もっと若い頃からそういう考え方でプレーできていたら……とは思いつつも、それは今までのサッカーに対して後悔しているわけじゃなくて。
―― わかります。でも、そういうのって“正しい順序”みたいなものはないですもんね。その頃に尖っていた……尖っていたかはわからないけど、それにもちゃんと意味があるからたぶん「もっと早く気づいておけば」というわけでもない。
ですよね。でもまあ、例えば川崎フロンターレに在籍していた頃なんてめちゃくちゃ尖っていたので、今となっては「バカだったなあ」と思うんですけど(笑)。
―― 面白い。ちなみに、お兄ちゃんの宏希選手に言われたのって守備のこと?
そうです。琉球では主にサイドハーフだったので、例えばプレスバックのところですよね。「そこをちゃんとやるだけじゃん。他のことは全部できるんだから、そこだけやれば見栄えが大きく変わる」と言われて。同時に、自分にとっては兄ちゃんからの評価でもありました。兄弟だから直接的に褒め合うようなことなんてないけど、その言葉によって「自信を持っていいんだな」と思えたし、守備の改善についてはそれまでもずっと言われてきたことだったけど、真剣に向き合ったことがなかったと改めて気づかされて。
当時の琉球には能力の高い選手が結構いたんですけど、周りを見てみたら、例えば今セレッソ大阪にいる上門知樹や浦和レッズにいる小泉佳穂はやっぱりちゃんとやっていた。彼らと比べたら僕自身のボールを奪う能力は圧倒的に低いけど、でも、あいつらがやっているんだから俺だってやらなきゃいけないなと。それに気づけたことは大きかったと思います。
―― 何がどう良くなったんですか?
いや、もう、それをやるほうがシンプルに“勝てる”と実感しました。充実していた2021シーズンは攻撃的なスタイルがハマったチームでしたけど、だからこそそれをやれば「もっと勝てる」と。不思議なもので、すごくキツいことをやっているんだけど、ずっとボールに触らないで不完全燃焼のまま終わる試合のほうが疲労感があるんですよね。それよりも守備でガッと走って、“プレー”し続けている試合のほうが疲労感が少ない。自分はそれを完璧にこなせる選手ではないけど、自分なりに感じたことはたくさんありました。
―― やはり兄は偉大ということか……(笑)。
そうですね(笑)。僕らはめっちゃ仲が良くて、サッカーの話もめっちゃするし、感覚も似ていると思うんです。それがわかっているから、言葉もすっと入ってきますよね。
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