“流れ”が来ている。
その時間はやがてチームを変え、田口自身の気持ちも変えた。
インタビュー・文=細江克弥
―― 泰士さん、おつかれさまです。
おつかれさまです。お願いします。
―― 今日は動画じゃないので、リラックスして。
はは。わかりました(笑)。
―― 早いもので今シーズンもいよいよクライマックスで、チームとしてはようやく結果につながる戦いができるようになってきた。泰士さんの視点で、今のチーム状態をどう説明する?
俺は、すごくいいと思いますよ。なぜかというと“いい試合”をしていない状態が続いてるじゃないですか。最近、特に多い。自分たちのスタイルとか、昨シーズンから積み上げてきたものを表現して勝ってるわけではないと思うんですよね。ただ、そういう試合で「勝っちゃっている」という言い方はちょっとヘンかもしれないですけど、結果として勝ち切れている。その流れは、俺は「いいな」と思いますけどね。
―― みんながそう思っている?
ああ、どうですかね……勝っているのに反省したり、課題を口にしたりするというか、そういう感じなんですよ。勝ったことを素直に100%喜んでいる感じじゃなくて。嬉しいけど、自分たちにとって一番いい時の勝ち方を知っているから、そうじゃないことに対する不満はあるというか。
―― つまり、「本当はこんなもんじゃないんだ」というもの足りなさを、次の意欲に変換し続けられている。
まさにそういう感じですよね。内容に納得いってないからこそ、次の試合に対してアグレッシブなメンタリティーで臨めているところがあって。「今節こそは」という気持ちがめちゃくちゃ強い状態で次の試合に入って、でもやっぱりそれをうまく表現できないんだけど、それでも勝つ、みたいな。だから、俺はめっちゃ流れがいいなと思うんですけど。
―― なるほど。「またうまくいかなかった」という思いが不安や迷いにつながることはない?
選手としては、もちろんあります。相手に対して「うまい」と感じたり、こっちのやりたいことがハマらないと感じて不安に思うこともあって。でも、そこから先は結果論なんですよね。ハマらなかったとして、失点するのかどうか。失点すれば崩れるけど、最近はそれがない。
―― 確かに。
ハマらなくても耐えて、耐えて、やられないまま逆に得点したり、やられても逆転したり。だって、正直、「なんか、取れちゃったんだけど」みたいな感覚の時もあるんですよ。
―― はは(笑)。
サッカーって、そういうのあるじゃないですか。
―― わかります。
不思議なスポーツだなと思うんですよね。最近、時に。
―― 本当ですね。外から見て“勝つチーム”とか“強いチーム”って、中から見たらそんな感じだったりするから。
そうなんですよね。上位にいるチームが残している“結果”って、つまりそういうことなんですよね。
―― じゃあ、いよいよそういうチームになってきたと実感している?
うーん……。どうなんだろう……。まあ、今の自分たちに求められているのってJ1昇格という結果ですからね。自動昇格の可能性はなくなってしまったけど、今はもう、プレーオフで勝ち上がることだけを考えていて。そういう状況に置かれた中での手にしているこの結果って、そりゃあポジティブ以外の何ものでもないですよね。それを「強い」と言えるかどうかはわからないけど、やっぱり、いい流れが来ていることは間違いないと思っていて。
―― 夏、苦しかったじゃないですか。
そうですね。
―― イライラもしていたと思うんですけど、今考えると、あの時って何が起きていたんだろう。
それも難しいんですけど、さっきの話で言えば、耐えて、耐えて、耐えきれずに失点していたし、失点してから逆転する力はなかったし。そうやって負けが重なって、全部がマイナスの方向に進んでしまっていたというか。
―― うん。
もちろん相手ありきのスポーツなので、ダメな原因がひとつなわけじゃないんですけど、でもなんか、ピッチに立っていて、チームとして生き生きとプレーしているような感覚はなかったですよね。うん。いつも不安定で、いつも「難しいな」と感じながらやってました。
―― そうですよね。でも、そこから“何か”が変わったから今のチームがある。
はっきりとした答えはわからないですよね。人なのか、バランスなのか。監督はそういうところを大事にしていると思うから、今のこのメンバーで落ち着いているところはあると思うんですよ。やり方に大きな変化があったわけじゃないので。勝てなかった苦しい時期って、上位陣との対戦が続いていたじゃないですか。上に行くためには大事な試合で、例えば横浜FC戦(第25節)とか、負け方も良くなかったですよね。
―― そうでした。
やってる感覚がめちゃくちゃ悪いという感じでもなかったんですけど、でも勝てない。で、ホームでいわきに負けて(第27節)、結果的にはそこを境に勝てるようになっていって。天皇杯に出ていたメンバーのモチベーションも高かったし、そういうタイミングが重なってチームとしていい方向に向かっていったんだと思うんですけど。
―― このチームの魅力はそこにあると思うんですよね。苦しいけど、ギリギリのところで我慢できる。苦しいけど、切れない。だからこそ、何かがハマった時に一気に好転するパワーを持っている。
言いたいことはわかります。
―― で、その“我慢する”段階にあって、泰士さんの役割は大きかったんじゃないかと想像するんですけど。
うーん、そうですね……。いや、俺は、なんか、めっちゃ抱え込んじゃってたんですよね。個人的には。
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