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#4

2020.1.23

ありがとう

佐藤勇人

勇人には決めていることがある。ランニングの際、先頭であり外側を走るということだ。

「いつからだろう。でも、内側を走っている選手って、だいたいダラダラ走っているんですよ。そういうところから、すべてが出ると思っている。ランニングも練習の一部だから、しっかりとやりたいと思っている。
フィジカルコーチよりも内側で走ることは絶対にないと思っています。だから、絶対にコーチよりも外側を走る。それは決めていることです。また、あのランニングでどのポジショニングをとるかで、その選手の性格というか人が見えます」

近年、一度ジェフを離れた選手が最終的に復帰するパターンが増えているが、勇人の決断は早かった。2010年、京都サンガF.C.への在籍わずか2年でジェフに戻ってくる。テレビでJ2降格を見届け、すぐに「ジェフをJ1に上げるために戻ろう」と決断したのだという。

「サンガでプレーした2年間は無駄ではなかったし、外に出てジェフのいい面も悪い面も知ることができた。あの2年があったからこそ今の自分があるし、ジェフのためになにかをしなければいけないと思うことができた。サンガでもいろいろ大変でしたけどね(笑)。ただ、この2年があったからこそ、ジェフで引退することができたんだと思っている」

ジェフ復帰を果たす選手たちには、どんな接し方をしているのだろうか。

「寿人にも米倉にも、にゅう(羽生直剛)にもいった。『戻ってくるならこの時期ではなかったんじゃないの?』と。ほかにも戻ってくるタイミングはあったし、それこそガンバ大阪で試合に出ているときに戻ってきてほしかった。ジェフからオファーもあったしね。出られなくなってジェフに戻ってくるという立場に関しては、自分はウェルカムではないともいいました。ただ、戻ってきたら間違いなく、しっかりとやってくれる選手たちだけどね、みんな。全員がジェフのためにやってくれている。それはうれしいし、戻ってきてくれてよかったと思う」

常に自分と誠実に向き合い、人と接してきた勇人。選手を代表し、監督やクラブスタッフに話をするときもそうだ。これをいえば嫌われてしまうとか、試合に起用されなくなってしまうんじゃないかという思いはひとかけらもない。

「試合で使われなくなるんじゃないかという怖さは一つもないし、そうなったらピッチ上で自分の存在を示せばいいだけのこと。常にチームが一番? そうですね。いつからかは分からないけれど、そういった部分では変わったかもしれない。チームのためになるなら、試合に出られなくてもいいと思えるようになった」

だからこそ2019シーズン限りでの引退を決意した。周囲からはまだまだやれるという声ばかりが届くが、

「自分が引退することで何かを変えたかった」

プロ生活20年で学んだ末の決断だった。

「しっかりとその1年を反省しなければいけない。ジェフは2008年に奇跡の残留を果たした。しかし、残留したことで満足してしまい、なぜ残留争いをするに至ったかをしっかりと検証しなかったんじゃないかと思う。それは、サンガもそうだった。6位を目標に掲げて戦ったのに、残留争いを繰り広げる結果になってしまったシーズンがあったのですが、結果、2年連続で残留することができた。残留できたからよかったで終わってしまい、案の定というか翌年にJ2へ降格。起きたことに対して、しっかりと向き合っていかないといけないんです。
ジェフが2019シーズンに17位だったことには、絶対に原因があるんです。運がなかったとか、こんなはずじゃなかったと思うだけではダメ。その原因をつきとめて、改善しなければ来年も同じことになる。だから、ボクの引退に注目が集まるのはいいことだとは思っていないんです。もっと皆さんにも、厳しい目でクラブを見てほしい。尹晶煥監督は確かな手腕を持っているし、セレッソ大阪やサガン鳥栖で結果を残している。でも、いい監督がきたからチームがよくなると思っているだけでは何も変わらない。そのことはもう一度、みんなで考えていきたい」

まだ現役を引退した実感はない。2020シーズンがスタートし、みんなの練習を外から眺めるようになったら感じることかもしれない。

「最終戦終了後に、一緒に戦った選手たちみんなから連絡がきた。すごくありがたかった。自分がやってきたことが認められたというか、ムダではなかったんだなって。今後もみんなのために、ジェフのために、いろいろなことにトライしていきたい」

最後に背番号7番への思いを口にした。

「ボクは中西永輔さんをずっと見てきた。だから背番号2番には強い思いがあるし、その2番をサカ(坂本將貴)ちゃんが引き継いだ。その後、2番が定着しなかったことに寂しい思いもある。ボクが長年つけてきた背番号7番は、ぜひアカデミーの選手に引き継いでほしい。鳥海晃司にはまだ早いかな(笑)」

選手として、10年かけてジェフをJ1に昇格させることはできなかった。もちろん、立場が変わっても簡単に成し遂げられる目標ではないことは分かっている。それでも、勇人はジェフのために走り続ける。

「ジェフが大好きだからね」