社長の前田英之が目指した文字どおりの「闘う集団」が、クラブ記録となる7連勝と、J1昇格プレーオフへの出場権を自らの力で手繰り寄せた。
時計が90分を回り、迎えたアディショナルタイム。CKのチャンスに、キャプテンマークを巻いた近藤直也が飛び込む。
「フリーだったし良いボールが来たので、あとは決めるだけでした。決める自信はありました。『最後に決めてやろう』という気持ちでした」
渾身のヘディングシュートはGKの手を弾いてゴールに吸い込まれた。キャプテンのゴールが、チームを「勝利」という結果以上の歓喜へと導いた。
スタメンはいつもどおりの4-2-3-1の布陣。GKは佐藤優也。最終ラインは右から溝渕雄志、近藤直也、キム ボムヨン、比嘉祐介の4人。ダブルボランチに熊谷アンドリューと佐藤勇人が入り、2列目は右に町田也真人、トップ下に船山貴之、左に為田大貴が並ぶ。1トップにはラリベイが入った。
試合はアクシデントから始まった。
最終ラインの背後に放り込まれたボールをキムが拾うが、相手のプレスを受けてボールを奪われる。そこからクロスを放り込まれ、オウンゴールを招くまさかの失点。今季最多の1万5994人が駆け付けたフクアリは騒然としたが、それで“自分たちのサッカー”を見失うジェフではなかった。船山が言う。
「最初のプレーでボムがミスをして失点してしまいましたけど、『あれで目が覚めた』と捉えることもできる。今のチームは『失点しても絶対に取り返せる』という感じがあるので、焦りはありませんでした」
徐々に落ち着きを取り戻したチームはテンポよくパスを散らして主導権を握る。前線からのハイプレスはいつも以上に鋭く、球際の攻防でも上回って少しずつ相手を押し込んだ。
そして迎えた30分、背番号10の右足から同点ゴールが生まれる。ラリベイの巧みなポストプレーから右サイドでパスを受けた町田が、コーナー付近から思い切りよくシュート。相手の足に当たったボールはゴールに吸い込まれ、ジェフは試合を振り出しに戻した。町田が振り返る。
「ホアキン(ラリベイ)からボールを受けた時に、タカさん(船山)が走り込んでいるのと、GKが少し前にいるのが少しだけ見えて、あとは『いいや!』と思って思い切り。それで奇跡が起きました。あんなにうまくいくとは思わなかった」
ドローで迎えた後半も、逆転を狙うジェフは勢いを加速させた。左サイドからは為田が積極的なドリブルで仕掛け、何度も好機を演出。佐藤勇人と熊谷は激しい守備でボールを奪い、サイドにボールを配ってリズムを作った。さらに最終ラインも近藤を中心に乱れることなく、的確なラインコントロールで横浜FCにチャンスを与えなかった。
フアン エスナイデル監督の采配も的確だった。
55分には佐藤勇人に代えて矢田旭、64分には船山に代えて清武功暉を投入。早めの交代策でチームを活性化し、ゴールへの推進力を保ち続けた。73分には比嘉に代えて指宿洋史を投入。システムを変更し、前線に厚みを加えて圧力をかけ、気迫溢れる攻撃が続く。しかし、それでもゴールを割ることができず、試合は90分を過ぎてアディショナルタイムに突入した。
5分間のアディショナルタイムの間に、他会場の結果が確定した。東京ヴェルディが徳島ヴォルティスに勝利し、松本山雅FCが京都サンガF.C.に敗れたため、ジェフが勝てば逆転でのプレーオフ進出が決まる。そんな状況で生まれた近藤のゴールに、フクアリが揺れた。
シーズンは続く。6位に滑り込んだジェフは、J1昇格プレーオフ準決勝で再び名古屋グランパスと対戦。これに勝てば、アビスパ福岡と東京Vの勝者と再びアウェイで行われる決勝に臨める。
あと2つ――。6位で臨むチャレンジャーだからこそ、失うものは何もない。その姿勢を忘れることなく、今こそ“自分たちのサッカー”を貫き、その先の未来を切り開くチャンスだ。