フクダ電子アリーナ 10th Aniversary

REPORTERS記者が語るフクアリ

REPORTER06

sounds good

サッカーライター細江 克弥

フクアリは、日本で一番「sounds good」なスタジアムである。

英会話でよく耳にするこの常套句には、いまや世界の人々が“押すか押さぬか”で日々頭を悩ませる「いいね」という意味がある。

クラブと町の身の丈に合った規模、いいね。スタンドからピッチまでの適度な距離感、いいね。それによって演出されるサッカーの臨場感、いいね。個人的には蘇我駅からまっすぐ伸びる道も、一本気な男らしさを感じてとても心地いい(ね)。スタジアムグルメはA級より尊いB級の極みで、これまたいい。スタジアムを評価するチェックシートを渡されたら、フクアリはそのすべてに「いいね」をマークしたくなる素晴らしいスタジアムだ。

もっとも、ここで言いたいのは「sounds good」という言葉の「いいね」という意味ではない。

10周年に際して強調したいのは、文字どおり「sound」が「good」であること。フクアリでサッカーを観ると、とにかく耳が気持ちいい。その後にできたスタジアムがどうして設計を真似しないのかと感じるほど、このスタジアムは、音の反響がとにかく素晴らしいのである。

記者が座るプレスシートはメインスタンドの右端にあり、僕はいつも、好んでその右端に座る。もはやゴールラインの延長線上に位置するほどの右端だから、“ジェフ側”のゴールはまあまあ遠い。しかしこの席を「特等」と感じるのは、アウェイ側ゴール裏に陣取る“敵”のサポーターが近く、彼らが声や手拍子、太鼓を使って奏でる“音”をよく聴くことができるからだ。

例えば──。

山形と新潟と札幌は、とにかく声がデカい。往年の“サンバ感”こそないが、東京Vは少しずつ数が増えてきた。岐阜はとにかく太鼓がうまい。福岡は「跳ばないヤツはサガン鳥栖」と飛び跳ねて楽しそう。愛媛から徳島から北九州から、どちら様も、遠路はるばるようこそ。J1のヤツら? そういやもう、忘れちまったな……。そんなことをぼんやりと考えながら、それぞれに特徴のある“音”を楽しんでいる。

フクアリの反響の良さは、ほとんどの場合において彼らを助ける。数は少なくても音が膨張するから、右端の席で耳にする応援合戦は彼らの圧勝。それは間違いなくアウェイチームのエネルギーとなり、時に彼らをスーパーサイヤ人に変身させたりもする。ジェフがホームで苦戦するのは、きっとそのせいだ。「スタジアムの素晴らしい雰囲気に後押しされて」とは、アウェイチームの監督や選手がよく口にする言葉である。

しかし、パワーアップした相手をジェフのサッカーが凌駕した時、応援合戦の形勢は右端の席においても逆転する。

じっと見守っていたメインスタンドとバックスタンドのお客さんが手をたたき、声を張ることで生まれる“音”は圧巻の迫力。『アッコちゃん』に合わせてタオルを振り回せば、ジェフは果敢に、なりふり構わず相手ゴールへと迫った。さあ、“フクアリ劇場”のスタートだ。記者らしく静かに観ていても、心の中では「行けー!」とガッツポーズを作り、袖をまくると鳥肌が立っていたりもする。劇場が幕を開けるその瞬間は、いつだって“音”で聴き分けることができる。あの快感が忘れられないからこそ、僕はたとえ仕事がなくてもフクアリに通った。

この素晴らしいスタジアムには、極上の「sound」がある。スタジアムの外には、ライバルたちにもオススメしたい「喜作」がある。

あとは関塚さんの奇策をもって、スタジアムの中に「喜」びを「作」るだけだ。6年前から待ち望んでいるその瞬間の「sound」を、アウェイゴール裏にほど近い右端の記者席で、僕は聴きたい。

細江 克弥

サッカーライター

細江 克弥 PROFILE

1979年生まれ。『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て'09年に独立。サッカーライター、編集者として幅広く活動し、『Number』などに寄稿する。『Jリーグサッカーキング』時代の2007年にジェフ担当記者を務め、2014年からクラブ公式HPでインタビュー記事などを執筆。