フクダ電子アリーナ 10th Aniversary

REPORTERS記者が語るフクアリ

2005.10.18 vs 横浜F・マリノス

REPORTER07

「幸福」を約束する
劇場空間の値打ち

ライター(元サッカーマガジン編集長)北條 聡

 清く、正しく、美しく、おまけに強い。そうした戦いを展開すれば、自ずとスタジアムに足を運ぶ人たちは増えるもの──。サッカー業界で長く生きてきた人たちの一部に、そんな思い込みがあるような気がする。良い試合をすれば観客が増えるかと言えば、必ずしもそうではない。イタリア随一の名門として知られるユベントスは、全国の人気と実力に反して、客足が伸びなかった時期がある。

 ネックはホームスタジアムの『デッレ・アルピ』にあった。斬新なデザインゆえに莫大な維持費がかかり、陸上トラックは客席からピッチを遠ざけ、巨大な屋根は芝の生育を阻むなど、プレーと観戦の両面で問題だらけ。しかも、郊外にあるためにアクセスが悪く、スタジアム周辺の治安もよろしくない。ウイークデーの試合には閑古鳥が鳴いた。どんなに強く、美しいチームでも客を呼べない、という悪例だ。

 大は小を兼ねると言うけれど、過ぎたるは及ばざるがごとし、とも言う。キャパ(収容人員)が大き過ぎるのも問題になる。例のデッレ・アルピの収容人員は約7万人だったが、現在の『ユベントス・スタジアム』(サッカー専用)のキャパは約4万人。この身の丈に合ったサイズを含め、観戦環境の改善・充実を図ったことが功を奏し、スタジアムの収入は約3倍に増えたという。いかに顧客目線が重要か、それを物語るエピソードだろう。

 いまから10年前、ジェフの新たな根城となった『フクダ電子アリーナ』は、まさに「観る者にやさしい」スタジアムと言っていい。第一にアクセスがいい。東京在住の僕でも東京駅から電車(JR京葉線)一本の乗り換えいらず。蘇我駅から歩いても、10分とかからない。初めて試合の取材で訪れた時、目の前にこつ然と姿を現すスタジアムを見上げ、しばらく、その場に立ちすくんだのを覚えている。まるで本場ヨーロッパのスタジアムにやって来たような高揚感を味わうことができたからだ。

 ポジティブな印象は記者席からスタジアム全体を見渡した時も変わらなかった。ピッチとスタンドの距離が近く、臨場感が伝わりやすい。キャパは約2万人。ジャストサイズの感がある。スタンドのボルテージが最高潮に達すると、大歓声が心地よく響き渡る。申し分のない劇場空間が、そこにあった。正直、その日の試合がどんな内容だったかはまるで覚えていない。それでも、単純に「また来たい」と思った。ライブ観戦の醍醐味を損なうどころか、それを余すところなく提供する魅力にあふれていた。

 ショートケーキにたとえれば、土台となるケーキ(スタジアム)の味は上等。残念なのは、イチゴ(結果)が足りないことだろう。2009年にJ2へ降格し今季で6シーズン目。充実一途のハードにソフトが追いついていない。素晴らしい空間を持て余し気味だ。デッレ・アルピ時代のユベントスとは対極の状況にある。行き届いた環境に、いつまでも胡坐(あぐら)をかいているわけにはいかないだろう。

 ジェフの歩む「次の10年」とは、フクアリを夢の劇場へと引き上げるチーム力の強化に尽きると思う。本来、サッカーにおける「ハードとソフト」は相乗効果の見込める関係にあるはずだ。まずはJ1に昇格し、次に上位へ食い込み、やがてタイトルを争い、奪う。10年後には、キャパを広げるステージに上がりたいところだろう。決して難しい相談ではないと思う。何しろ「幸福」を約束するスタジアムなのだ。

 フクアリに、福あり──。

北條 聡

ライター(元サッカーマガジン編集長)