この夏、坂本將貴監督率いるジェフU-15は、日本クラブユースサッカー選手権(U-15)に出場する。
ジュニアユース(中学生年代)のクラブチーム日本一を決するこの大会は、U-15にとって大きな目標であり、近年は“本大会出場”の目標を達成することさえできない大きな壁だった。千葉県予選、関東予選を勝ち抜いて本大会に出場するのは、実に5年ぶりのことだ。その難しさについて、坂本はこう説明する。
「関東で1,000以上のクラブチームがある中で、関東代表として全国大会に出場できるのは14チームだけ。その数字だけで、本大会に出場するのがとても難しい大会であることがわかります」
現在のU-15は、“育成のジェフ”の復活を目指すクラブにとってひとつの指標となる学年だ。彼らが中学1年になった2017年は、アカデミーダイレクターに就任したホセ・マヌエル・ララの下で改革に乗り出した最初の年。当時、U-15を率いて2年目だった坂本は、指導者として彼らの変化を間近に感じてきた。
「勝てない時期が長く続いたこともあったし、今なら互角に勝負できる相手に信じられないような大敗を喫したこともありました。そういう意味で、今回の本大会出場という結果は、ホセとともに進めてきた改革が1つの形になったことを意味しているのかもしれません」
今年5月、本大会出場を目指すジェフU-15の道のりは、千葉県予選からスタートした。
ベスト32、ベスト16と順調に突破し、迎えた準々決勝ではPK戦の末にラルクヴェール千葉を撃破。準決勝でブリオベッカ浦安、3位決定戦でクラブ ドラゴンズ柏に敗れたものの、上位4チームに与えられる関東大会への出場県を獲得した。
続いて6月に始まった関東大会では、1回戦で矢板SC(栃木)に3-0と勝利。しかし、続く2回戦の相手は関東1部リーグに所属する格上のFC東京深川(東京)だった。坂本は「この試合が一番大きかった」と振り返る。
「FC東京深川は、関東1部でも上位のチーム。そういう相手に1-0というスコアで勝てたことが大きかった。ただし、相手が強いことはわかっていたけれど、それまでの過程やチーム状況を見て『勝てない』とは思わなかった。しっかりと戦える雰囲気が、あの時のチームにはあったと思います」
どんな相手に対してもボールの主導権を握ろうとする“自分たちのサッカー”や“ジェフらしいサッカー”を貫くことに主眼を置いてきたからこそ、坂本はそれまで、選手たちに対戦相手の情報を与えて戦術に落とし込むことはしなかった。しかし、「うまく戦えば勝てる」という手応えを感じていたからこそ、一歩踏み込んで戦術的に戦うことを決断した。
「相手の特徴を伝え、攻撃と守備の意図を明確にしました。展開は狙いどおり。もう少し圧倒されるかもしれない、守る時間が増えるかもしれないと想定していたけれど、思っていたよりもしっかりとボールを保持することができた。自分たちがやりたいことをはっきりと表現し、また、格上の相手に対して守備面で気持ちを見せられた試合だったと思います」
1対1で勝負をすれば勝ち目はない。だからどの局面でも数的優位を保つことを意識させ、攻撃面ではあえてミスマッチを生む“仕掛け”を作った。スコアレスで迎えた後半半ば、自陣からパスをつないで相手最終ラインの背後を突くサイド攻撃を仕掛け、クロスのこぼれ球を押し込んで決勝ゴールを奪った。
「決して偶発的に生まれたゴールではなく、これも狙いどおり。ただ、戦術で勝ったとは思いません。やっぱり、ピッチに立って戦うのは選手たちですから。根性論を求めるわけではないけれど、こういう接戦こそ、最後は勝ちたいという気持ちが結果を左右する。この試合は、改めてそのことを感じたゲームでもありました」
“あの深川”を相手に、しかも狙いどおりの戦いで勝ったことで、選手たちは大きな喜びを感じたに違いない。それでも坂本は、冷静な言葉を並べて選手たちの意識を次に向かわせた。
「『ただこの試合に勝っただけ。次の試合で負けたらそこで終わり。だから、満足だけはしちゃいけない。お前たちはまだ何も成し遂げていない』と伝えました。指導者になって、現役時代に(イビチャ)オシムさんに言われた言葉が改めて響くんです。僕も同じことを言われましたから。『お腹いっぱいになったら終わりだ』と(笑)」
迎えた3回戦ではヴァンフォーレ甲府(山梨)にやはり1-0と競り勝ったものの、ベスト16ではFC東京むさしに0-3、敗者戦1回戦ではFC多摩(東京)に1-2と敗れ、ジェフU-15は本大会出場権を懸けたラストマッチに臨んだ。相手は、関東1部に所属する栃木SC(栃木)。しかしジェフは、この試合に2-1で勝利して見事に本大会出場権を獲得した。
千葉県大会、そして関東大会という計11試合の予選を通じて、チームは大きく成長した。坂本が言う。
「たった1人で点を取れたり、ドリブルで何人も抜ける選手がいるわけじゃない。自分たちにできるのは、ボールを丁寧につなぎ、数的優位を作り、相手がイヤがることをすることだけ。それを表現して結果を残したという意味では、選手たちの成長を感じることができました」
8月15日に開幕する本大会で、ジェフはモンテディオ庄内(山形)、サンフレッチェくにびき(広島)、湘南ベルマーレ(神奈川)と同居するグループAに振り分けられた。坂本は指揮官として、「1試合でも多く」と意気込む。
「日本一を決める大会だからといって、“ただ勝てばいい”わけじゃないと思っています。この年代はプロになるための通過点であって、この大会でしか得られない経験がたくさんある。だからこそ、自分たちのスタイルを貫きながら、1つでも多くの試合をさせてあげたい。ジェフのエンブレムの重みや誇りを感じながら戦ってほしいですね」
モンテディオ庄内との初戦は8月15日。帯広の森球技場で幕を開ける。
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MF
後藤 大輔
(FC東京深川戦の)前日に大宮アルディージャがFC杉野に負ける試合を見て、「自分たちの力を発揮すれば、格上の相手でも勝てる」と思っていました。だから、ビビらずに戦えたと思います。関東大会で最後の試合になった栃木SC戦も、試合の立ち上がりから自分たちのサッカーができたので「勝てる」と思いました。
僕はこの大会が始まる前、昇平さん(池田昇平コーチ)に「球際の勝負はもっと強く行け」と言われて、それを意識してプレーするようになりました。この大会で成長できた部分だと思うので、もっと伸ばしたいです。チームとしては、関東大会では自分たちのサッカーを発揮できない時間帯もあったので、それをなるべく長くできるように、全国大会に向けてしっかりと準備したいと思います。
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MF
松下 伊吹
試合の2日前にFC東京深川の動画を見せてもらって、「自分たちのサッカーをすればチャンスはある」と思いました。サカさんが教えてくれた自分たちのサッカーは、しっかりと後ろからボールをつないでゴールを目指すサッカーです。この試合でも立ち上がりの時間帯はロングボールを使って様子を見ながら、慣れてからはしっかりとパスをつなぐサッカーに切り替えました。後半に奪ったゴールも、パスをつないで、クロスから決めたので嬉しかったです。
全国大会では、勝つだけじゃなく、見ている人に「ジェフのサッカーは楽しい」と思ってもらえるようなプレーをしたいです。
◆千葉県大会
5月6日 ラウンド32 vs 柏エフォート 10○0
5月12日 ラウンド16 vs 千葉SC 1○0
5月18日 準々決勝 vs ラルクヴェール千葉 2△2(PK4○1)
※関東予選出場権(上位4チーム)獲得
5月25日 準決勝 vs ブリオベッカ浦安 0△0(PK2●3)
6月2日 3位決定戦 vs クラブ ドラゴンズ柏 1●2
◆関東大会
6月9日 1回戦 vs 矢板SC(栃木) 3○0
6月15日 2回戦 vs FC東京深川(東京) 1○0
6月22日 3回戦 vs ヴァンフォーレ甲府(山梨) 1○0
6月29日 ラウンド16 vs FC東京むさし(東京) 0●3
6月30日 敗者1回戦 vs FC多摩(東京) 1●2
7月6日 代表決定戦 vs 栃木SC(栃木) 2○1
※全国大会出場権(上位14チーム)獲得
◆全国大会
8月15日 グループリーグ第1戦 vs モンテディオ庄内(山形)
8月16日 グループリーグ第2戦 vs 湘南ベルマーレ(神奈川)
8月17日 グループリーグ第3戦 vs サンフレッチェくにびき(広島)
8月19日 ラウンド32
8月20日 ラウンド16
8月21日 準々決勝
8月23日 準決勝
8月24日 決勝
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