#73
2023.7.4 Update!!
小林祐介
加入3年目の小林祐介が、ついにその本領を発揮している。
鋭い出足のインターセプトは今季のチームにおける生命線だ。
自身も驚くのほど大きな変化の過程にある今だからこそ、それをチームの“結果”につなげたいと心から思う。
インタビュー・文=細江克弥
―― 好調だった5月あたりのパフォーマンスを見て、正直なところ「もう大丈夫かもしれない」と思っていました。その後に現実を突きつけられる厳しい負け方が続いてしまったことに驚いているけど、一方では新しいサッカーを戦術的に積み上げようとしているチームにとっては当たり前に直面する“段階”なのかもしれないと思っていて。局面ごとの選択肢が増えてきて、それを無意識のまま瞬間的にパッと合わせるにはもっと経験値が必要なのかもしれない。それについてはどう思いますか?
うん、そうですね……。3連勝があって、そのあと天皇杯を含めた4連敗があって。勝っていた時は自分たちがやりたいサッカーをやれずに勝てた試合もあったし、そういう意味では今言われたとおりの部分で“まだまだ”だったんだと思います。積み上げていく中で“やりたいこと”の引き出しが少しずつ増えていく感覚はありましたけど、できることが増えてきたからこそ、少しでも迷いが生じると勝負の“際(きわ)”のところで相手に流れを持っていかれてしまう。それを痛感したのがFC町田ゼルビア戦(第19節)ですよね。同じような負け方が続いたことで自信を失って流れを手放してしまった気がするので、また一つずつ積み上げていくしかないと思っているんですけど。
―― 結果が出ない試合が続く中で、個人的にはどんな感情を持っていた?
開幕直後の時期って、仕上げの部分でチャンスを決め切れずに追いつかれたり、負けたりという試合が多かったじゃないですか。それは“負ける要因”としてははっきりしていると思うんですけど、最近は内容的に相手を上回って、先制点も奪っているのに自分たちから試合を壊してしまうことが多い気がして。そういう意味で、この間の水戸戦なんかは今シーズン初めて心から「情けない」と感じた試合でした。個人的に4失点目を自分のハンドから取られてしまったこともありましたけど。
―― チームとして未完成だからこそこういう状況に陥ることもあり得ると思うんですけど、こういう状況で大切なのは、チームを完成形に持っていくために“絶対的に信じられる何か”を持っているかどうかだと思うんです。その感覚ってありますか?
あります。“自分たちのサッカー”に対する確信はブレていないし、表面的に見える戦い方は少しずつ変化しているけど、根本的なところは最初から何も変わってません。「やれている」という感覚もちゃんとあるからこそ、やっぱり我慢しなきゃいけないし、やり続けるしかないですよね。こういう状況だからこそ選手個々のメンタルの強さが求められる気がするし、個人的には「この状況さえ抜ければ」と思っているんですけど。
―― めちゃくちゃ難しいですよね。そういうメンタリティーをピッチで表現し続けるのって簡単じゃないし、水戸戦はそれさえ疑いたくなるような内容と結果でした。あの試合のピッチでは何が起きていた?
“ノッたら強い相手”に同点にされて、その勢いに飲まれてしまった試合でした。チームとしてというより、“個人”の局面でやるべきことがまったくできなかった。球際のバトル。走ること。そういう当たり前のことがまったくできなかった試合でした。
―― “観る側”として感じる不安はまさにそこにあると思うんです。今季のチームは始動と同時に「当たり前を当たり前に」というポイントをとにかく強調してきて、それさえできれば内容的に相手を上回れることがわかってきたし、結果に直結する成功や失敗も経験してきた。なのに、どうしてこのタイミングでまた同じ失敗を繰り返してしまうのかと。
わかります。選手たち自身も思うことですから。ただ、やっぱりサッカーって「当たり前のことを当たり前に」が一番難しいということだと思うんです。どんなに本気で突き詰めても表現できないこともあるし、“完成”することなんてあり得ないから突き詰め続けるしかない。そのレベルを少しずつ上げていくしか方法はないけれど、今の自分たちはまだゲームの“際(きわ)”の部分でそれをうまく表現できない。
―― それが、今の自分たちの甘さや弱さであり、ポジティブに考えれば可能性であると言える。
はい。ここまでの戦いを振り返ると、勝つ時も負ける時もギリギリのところで。そこで走り負けたり、一歩が遅れたり、ぶつかり合いを譲ってしまうとチームとして負けてしまう。そのことについては、町田戦と水戸戦の連敗によって改めて思い知らされました。難しいけど、表現さえできれば戦えるとわかっているからこそやり続けるしかないと思います。