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#075

2023.8.29 Update!!

生まれ変わりつつある自分。

田中和樹

もうすっかり“ジェフの一員”として誰もが認める存在となった。
武器は爆発的なスピード。しかしピッチに立つ時間と比例して急成長を遂げ続ける彼の“可能性”は、今、飛躍的に拡大している。

インタビュー・文=細江克弥


田中和樹

“本気”になれたからこそ

―― ここ数試合、田中選手のパフォーマンスがまた一段階上がっている気がするんですが、そういう感覚ってありますか?

それは……はい……自分でもあります(笑)。ただ、何が変わったのかはまったくわからないんですけど、実際のところ、足をそんなにつらなくなったことも変化のひとつだなと思っていて。それって単純に、身体のコンディションが上がっていることの表れでもあるのかなって。

―― ですよね。同感です。そもそも身体のコンディションが良さそうだなと。それって本来の自分を取り戻したという感覚?それとも、ここにきてレベルアップしたという感覚?1カ月くらい前に話を聞いた時は、「これだけ試合に出続けるのが大学以来だから、ようやく本来の身体のコンディションを取り戻しつつある」と話していましたよね。

自分的には、そこからもう1段階レベルアップしたという感覚です。プレーの幅が広がっているし、自信を持ってプレーすることができていて。それも身体のコンディションがいいからだと思うんですけど。

―― シーズン序盤はちょっと苦しみましたもんね。

はい。やっぱり、試合に出て、結果を出さなきゃいけないという焦りがあって、でもそういう感情っていい方向に転ばないじゃないですか。最初の頃は、レンタルでこのチームに来て、ここで結果を残さなきゃ“この先”はないという感情が一番にあって。そうやって自分を追い込んでしまっていたのかなと思います。

―― なるほど。

やっぱり、大卒って高卒よりもプロとして過ごせる時間が短いし、1年目や2年目から即戦力として結果を残さないとすぐにキャリアが終わってしまうという気持ちが強くて。でも、1年目の昨シーズンは“カップ戦要員”という感じでしか試合に出られなかったので、だからこそ今シーズンは絶対に結果を残してやろうという覚悟でジェフに来ました。

―― どうしてジェフを選んだ?

一番最初にオファーをくれたことが大きかったです。オンラインでの話し合いだったんですけど、(小林)慶行さんが「こういうサッカーをやりたいから必要だ」と直接言ってくれて。それが嬉しかったし、「このサッカーなら自分の特長を出せる」と思いました。

―― ちなみに、プロ1年目、2022シーズンはどんな感じでした?

キャンプから調子が良くて「いけるかも」という手応えがありました。でも、環境やチームに慣れていくうちに逆に自分が萎縮してしまうというか、思い切ったプレーをする前にミスを恐れる感覚に陥ってしまって。

―― それだけはっきりとした武器を持っていながら、萎縮してしまったのはどうして?

自分の性格的なこともあるんですけど、自分のミスでプレーの流れが悪くなったりするとすごく気にしてしまうところがあって。1年の最初にそういうモードに入ってしまうと、なかなか抜け出せないんです。「自分のことはどうでもいいからチームのために」と考え過ぎて、「自分の武器で勝負する」という気持ちを持てなくなってしまいました。だから、環境を変えて、自分をリセットする必要があると思ったんです。

―― 京都サンガF.C.の曺貴裁監督って、そういう選手に対してパッと手を差し伸べるのがめちゃくちゃうまいじゃないですか。真正面から1対1で向き合おうとするあのスタイルが僕は本当に好きなんですけど、きっと田中選手に対しても何らかのアプローチがあったのでは?

ありました。何度か1対1で話してもらうことが。ただ、正直に言うと、最初の頃は監督の言葉を受け入れているつもりでいて、本当はそうじゃなかったというか。例えば、練習中のちょっとした言葉から「他の選手に対する言い方と違う」と感じてしまうことがあったり、「1対1で話した時の言葉と練習中にかけられる言葉が違う」と思ってしまう感じで、つまり、自分にベクトルを向けられてなかったんですよね。だから、曺さんに対しても、自分に対してもちゃんと向き合えていませんでした。

だから、ある時に「このままじゃダメだ」と思ったんです。やっとそう思えた頃にまた曺さんに声をかけてもらえて、「お前、本当にこのままでいいのか?」と問いかけられました。「お前、うまくなろうとしてるか?」って。曺さんのその言葉が心に刺さりまくって、俺、その場でボロ泣きしちゃったんですよ。

―― 昔よく湘南ベルマーレの選手たちからそういう話を聞いていました。曺さんのすごいところですよね。

はい。その瞬間から本気で「やらなきゃダメだ」と。そこで完全に切り替わりました。次の日から「サッカーがもっとうまくなるために」というマインドを持てるようになって、そうしたら練習中に曺さんからかけられる言葉がスッと入ってくるようになったんです。それを感じた瞬間に「やっぱり自分が悪かったんだ」と思いました。それがシーズン終盤の10月だったので気づくのが遅かったんですけど、自分の中では調子もどんどん良くなっていって、曺さんからも「あの話のあとから見違えるようになった」と言ってもらえました。

―― だからこそ、環境を変えてチャレンジするという決断に至ったわけですね。

そうかもしれません。あの経験がなかったらズルズルいっちゃっていた気がするんですけど、昨シーズンの最後の1カ月間で本当に大きなものを得られたからこそ「サッカー選手として絶対に成功したい」と思えるようになって。だからこそ、自分を“勝負”させるためにジェフに来ることにしました。

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『2つのターニングポイント』

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