#078
2023.12.12 Update!!
小林慶行監督
2024シーズンもジェフは小林慶行監督とともにJ1昇格を目指す。
東京ヴェルディに敗れたJ1昇格プレーオフから一週間後の12月2日、小林監督に激動のシーズンを振り返る言葉を求めながら、来る新シーズン、ジェフが進むべき道のりについて探った。
インタビュー・文=細江克弥
―― 小林監督、オフに入っているのにすみません。
いえいえ。まったく問題ありません。よろしくお願いします。
―― J1昇格プレーオフの敗退からちょうど1週間が経ちました。まずは、今現在の心境から教えてください。
うーん、そうですね……今日、ちょうどこのあと東京ヴェルディと清水エスパルスによるJ1昇格プレーオフの決勝がありますけれど、今現在の心境としては「この状態なら何とか試合を観られるかな」というところまで戻ってきた……という感じです。正直、直後の3日間くらいは本当に何も考えられないような状態で、完全に“空っぽ”になってしまいました。自分の頭と心にエネルギーがないことが自分でよくわかるというか、もしこの状態でトレーニングがあっても絶対に何もできないだろうなと。
自分でも初めてのことだったのでどう対処すればいいのかわからなかったんですけど、その後の数日間で少しずつ人に会ったり、話をしたり、ACLのヴァンフォーレ甲府対メルボルンの試合を国立競技場で観たりしながら少しずつ回復していくことを感じました。今はそうやって少しずつエネルギーを取り戻しながら、心と身体をリセットしている感じです。さすがに今日の試合を現地で観る気にはなれなかったんですけど、画面を通じてなら、ちゃんと観られるかなと。明日からしばらく海外で過ごすので、サッカーに対する情熱を向こうでしっかりインプットして、またいい準備をしたいという気持ちでいます。
―― 明日からの海外ツアーはオフを利用したリフレッシュというより、“インプット”のためのものですか?
どちらの意味もあります。今回はオーストラリア、ドイツ、イングランドと3カ国を回る予定で、自分たちが目指すスタイルに近いチームを観て、何かを感じられたらいいなと。ドイツではGKコーチの(川原)元樹と合流してレヴァークーゼンを視察する予定です。元樹はもともとドイツで指導者としてのキャリアをスタートしているので、向こうにコネクションもあるし、昨年も1人でいろいろと見に行っているんですよ。彼はオフになるたびにものすごく熱心に自分自身をアップデートしようとするので、今回は僕もそこに乗っからせてもらおうと思いました。
―― レヴァークーゼン、今、すごいですよね。シャビ・アロンソ監督の下でめちゃくちゃ面白いサッカーをやっている。
あれは本当にすごいですね。なんでああいうサッカーを表現することができるのか、そのヒントをもらうためにも現場で見てみたいと思っているんです。どれだけ視察できるかわからないんですけど、トレーニングも含めて、自分の中で何かを感じられたらいいなと思っていて。
―― シーズン中はヨーロッパのサッカーをチェックする時間すらなかったのでは?
まったくありませんでした。でも、それじゃダメだということは自分でもわかっていました。やっぱり、指導者としてはそこにはちゃんとアンテナを張っていないといけないし、自分のアイデアを常にアップデートするという意味でも世界のトレンドは抑えておかなきゃいけないなと。ただ、今シーズンに関してはそれができない怖さを感じながらも、やっぱり大事なのは“今”という状況だったので。
バランスを取るのがすごく難しかったですね。結果が出なければもっとのめり込んでしまうというか、相手のスカウティングなら「もう1試合観てみよう」となってしまうし、自分たちを改善するために「同じ試合をもう1回見直そう」となってしまう。そうなると時間もパワーも使い切ってしまうので、自分の中になかなか“余白”を作れなくて。
―― 結果が出ない状況で「何とかしなければ」と思うほどなおさらに。
そうなんです。でも、監督として最も大事なのは、いかにフレッシュな状態で判断し、最終的な決断を下せるかだと思うんです。それなのに、自分自身がその状態にないことがよくわかる状態が続いていました。フレッシュな状態を作るどころか、完全に頭の中が疲れ切っている状態で、それでも自分自身のタスクを増やし続けていた。シーズン途中でようやくそのことに気づいて、「これじゃダメだ」と自分を変えました。「俺にはこんなに心強いコーチたちがいるじゃないか」と考えて、彼らの持っている力にもっと頼ろうと思いました。
―― そうしたバランス感覚における自分なりの正解を見つけるのって、ものすごく難しいことだと思います。
監督としての自分のスタイルを確立することの難しさというか、そういうことを強く感じた1年でした。うまくいかなければいろいろなことにトライしてしまうし、今までコーチとしてやってきたことをベースにしようとする自分がいて、それをやらなきゃ不安になってしまう自分がいる。相手のスカウティングもやる。自分たちのフィードバックもやる。トレーニングも見る。そういう感じで自分のタスクをどんどん増やしてしまうんですよ。もちろん仕事はピッチ内のことだけではないので、練習後に「これ、どうしますか?」と答えを求められる案件もいくつもありました。
もちろん、そういう状態に追い込まれていることに気づいてないわけじゃないんです。「これはヤバい」という感情を持ちながらも「それでもやらなきゃ」と思ってしまう。でも、結果が出ないことで自分自身のハードワークを加速させる状態ではメンタル的にフレッシュな状態を作れないし、勇気を持って、もっと早い段階で“タスクを捨てる”という決断を下さなければならなかったと今となっては思います。でも、シーズン前半戦の自分はまったくわかっていませんでした。
―― 監督の仕事が、それだけ特殊であるということも言える気がします。
こればっかりは「やってみなければわからなかった」というのが本音です。もちろんコーチ時代から監督という仕事に対するイメージを膨らませてきましたし、それを理解した上でチャンレジすることができたと思っていました。でも、実際にその立場になって味わう感覚は、以前から抱いていたイメージとはまったく違った。それを思いきり痛感した1年だったと思いますし、本当に大きな学びを得られたシーズンでした。
―― なるほど……そりゃあ3日間“空っぽ”になりますよね。
ハハハ(笑)。自分でもびっくりしました。
―― ご家族も心配されたのでは?
そうかもしれませんね。子どもたちから見たシーズン中の自分は「いつもパソコンを持ってどこかに行っちゃうパパ」だったと思うので、“無”の状態でずっと家にいる自分に対して思うところはあったんじゃないかなと。
そういう意味では、ヘッドコーチのサカ(坂本將貴)にも申し訳なかったなと。シーズン前半戦はオフの日でもクラブハウスに集まって、次の試合をどう戦うか、トレーニングをどう構築するかについてずっと2人で話し合っていました。サカの家族に対して申し訳ないという気持ちを持ちながらも、あの時の自分にはそうすることしかできませんでした。そういう意味でも、本当にコーチ陣に救われた1年でした。そこに気づけたことが僕自身にとってすごく大きかったと思っています。