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#099

2025.10.03 Update!!

変われば、勝てる。

カルメレ トレス監督

新監督としてレディースを率いるカルメレ トレス。
スペインで確かな実績を残してきた名将が語る
チームの変革を促すためのアプローチとは。

インタビュー・文=細江克弥


カルメレ トレス

楽しさが結果につながる

―― カルメレ監督、よろしくお願いします。今日は今シーズンのレディースがどんなサッカーを作ろうとしているのか、監督の頭の中にあるイメージを言葉にしていただきたいと思っています。

わかりました。そうですね……私のスタイルを言葉で説明するなら……例えば、現代サッカーにおいてはダイレクトなプレースタイル、つまりよりシンプルに、より縦に速く展開するスタイルを志向するチームも増えていますよね。でも、私のチームにはそれとは違うキャラクターを持たせたいと考えています。

具体的には、選手のコンビネーションによってボールを前進させるフットボールです。選手ひとりひとりの良さをチームとして引き出しながら、それを組み合わせることで相手のラインを1つずつ越えていこうとする。見る人には選手の個性がうまく重なった瞬間の面白さを楽しんでもらいつつ、それを勝利という結果につなげるのが私の仕事であり、私自身が好きなフットボールです。

―― 相手ゴールに対してダイレクトなプレーを減らすほど、つまりコンビネーションを増やすほどミスが生まれるリスクは上がると思うのですが、それについてはどう考えていますか?

おっしゃるとおり、コンビネーションを増やすことによってミスのリスクが高まることは間違いありません。だからこそ、コンビネーションを高めるトレーニングを行う際には、同時に、リスクを管理する意識やミスに対するアクションを養うためのトレーニングを行うことが必要です。「コンビネーションを大切にする」と言ってもテンポよくパスをつなぐことに執着するのではなく、あくまでゲームに勝つために必要なことを、その時々のチーム状態を見ながら積み重ねていくという考え方です。

攻撃のフェーズにおいて求められるのは「いかに安全なコンビネーションを増やせるか」です。ある局面において、攻守両面での最適解は2タッチでプレーすることなのか、3タッチでプレーすることなのか、あるいは1タッチでプレーすることなのか。その選択を間違えなければ必然的に最も攻撃的で、最もリスクを抑えたコンビネーションが生まれるはずです。そういう力を養うためのトレーニングをあらゆる角度から提示していきたいと思っています。

―― とてもわかりやすいです。それがカルメレ監督にとっての“好きなサッカー”であるとして、その源流にはどんな思いが?

そうですね……これは誰かに対する批判でもなければ、自分の主張を正当化する意見ではないということを前提としてお話ししますね。

シンプルに、フットボールにかかわる人々……指導者やスタッフ、サポーターももちろんですが、かかわり方はそれぞれ違うとしても、ほとんどすべての人に通底するフットボールの魅力というものがあると思うのです。

選手の個性が重なり合うことで生まれるコンビネーション、それを駆使しながら、あくまで自分たちで主体性を持ってボールをコントロールし、前進させる。そして相手ゴールに到達する。

そういうフットボールに対する“好き”という感情は、そもそものフットボールに対する憧れや情熱として、私だけでなく誰もが抱いているのではないかと思うのです。

もっとも、誰もがそれを自由に表現できるわけではありません。プロスポーツの目的はあくまで勝つことですから、それぞれの環境、選手の質、地域の特性などの影響を受けながら、指導者によって選択するフットボールが異なることは当然のことです。よりスピーディーに、よりダイレクトに相手ゴールに迫ろうとするフットボールもそのひとつですよね。フットボールの本質的な魅力に対する思いがあったとしても、実際にそれを表現できるかどうかはわからない。ある指導者がロングボール一辺倒のフットボールを選択したとしても、誰かを納得させられるだけの理由はいくらでも挙げられます。

だから、私がコンビネーションのあるフットボールを選択する理由は至ってシンプルです。自分にとってはフットボールの本質的な魅力こそが自分がこのスポーツと向き合うことの原動力であり、フットボールの世界にいるひとりとして、「フットボールはこうあるべき」という思いがある。だから、指導者としてもまっすぐにそれを表現することにチャレンジしたい。

スペイン人に対して「そういうフットボールが好き」というイメージを持たれることもありますが、私自身の意見としては、「そういうフットボールが好き」という見方はフットボールに携わる人すべてに当てはまると思います。だから、私も“世界中にいるフットボールが好きな人の1人”に過ぎないのかなと。

それからもうひとつ、私自身は長く教壇に立ってきた教育者でもあるのですが、その立場や教育者として積み重ねてきた経験や知識も、フットボール指導者である自分に強く影響していると思います。

どのカテゴリーのチームを率いる指導者であれ、“教育者”としての側面をしっかりと持っている人なら、おそらくロングボール一辺倒のフットボールによって選手たちからボールを遠ざけるようなことはしないのではないでしょうか。

―― なるほど。「教育者である」という言葉ですべての説明がつくというか、その言葉だけで完全に納得できる気がします。フットボールから得られる学びは、フットボールの本質的な魅力と真正面から向き合ってこそ体感できるという考え方ですよね。

本当にそのとおりです。世界のトップレベルを舞台とする指導者の口から、たまに、フットボールに対するそうした考え方を否定する発言を耳にすることもあるのですが、私はそうは思いません。

やはり、選手たちが持っている能力を最大限に引き出しながら、とにかくフットボールを楽しんでもらいたいし、楽しむべきだと思うのです。ボールに対して主体性がないフットボールをやろうとすると、“制限”が楽しさを上回ってしまう。だから私は制限をかけたくないし、ネガティブな要素ばかりを抽出してリスク管理させるようなフットボールはしたくない。それでいて、しっかりと自分たちの目標に向かっていけるフットボールを実現したいと考えているのです。

―― これは僕自身のサッカー観として、ピッチに立っている11人が心からフットボールを楽しんでいて、楽しいからこそ“ゾーン”に入っている状態のチームが結局のところ一番強いのではないかと思うんです。だから、むしろ“楽しさ”を追求することが“強さ”を手に入れるための一番の近道なのではないかと。

私もまったく同じことを思っています。ピッチに立つ11人だけではなく、ベンチ入りしているメンバー、あるいはメンバー外を含む全員がはっきりとした充実感を持ちながら試合に臨み、フットボールが最高に楽しいという感覚があるから集中し、それぞれのゾーンに入ってプレーすることでチームとしての最大値が引き出される。それが最終的な結果につながると私自身も信じてますし、だからこそ、それを妨げるような“制限”をチームにかけたくないのです。

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新しい守備の感覚

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