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#65

「小林新監督とともに。」鈴木健仁GM

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#65 小林新監督とともに。

「一体感」は絶対条件 手に入れるためにすべきこと



―― それはやっぱり、尹監督体制下の3年間におけるポジティブな側面ですよね。新型コロナウイルス感染症の影響があったとはいえ、若手にこれだけ多くの出場機会を与える監督はいなかったと思うので。

そう思います。2022シーズンなら高卒ルーキーの西久保駿介が素晴らしい活躍を見せてくれましたが、おそらく、尹監督じゃなければあれだけの出場機会をもらえなかったはずです。もちろんそれは、他の選手にとっても同じです。来シーズン以降のチームにとって、間違いなく大きな財産になると思っています。

それから、ピッチ内においてはやはり守備の部分ですよね。失点が少なかったというデータにも表れていましたけれど、守備の強度や切り替えの速さについては1年目より2年目、2年目より3年目と着実に改善されていきました。そこは絶対に継続すべきだし、たとえスタイルが変わっても、維持しなければならない要素だと考えています。

―― 相手との相性によるところが大きいとはいえ、「ハマったら強い」という感覚を持つことができたのは守備に対する自信が少しずつ大きくなっていったからですよね。事実、内容的に「素晴らしい」と言える試合もいくつもありました。

そういう試合、そういう内容を“意図的に増やす”ことが重要だと考えています。今シーズンまでのチームは、それこそ相手との相性に関係なく意図的に自分たちのスタイルをハメていくような戦い方ができなかった。意図的な戦いをするために、意図的に準備する――そのサイクルが絶対的に必要だし、その繰り返しによってスタイルが完成し、それをベースとするからこそもっと柔軟にいろいろな相手、いろいろな状況に対応できるチームになれると思うんです。

―― 今のJ2リーグは、もはやそういうチームじゃないと勝ち抜けないと強く思います。個人的には、第37節のモンテディオ山形戦、続く第38節のロアッソ熊本戦の連敗はその現実を突き付けられてショックを受けました。もう、“そっちの方向”に舵を切らないと絶対に勝てないぞと。

わかります。

―― しかも、懸けた年月の長さによる積み上げも、スタイルの完成にそれほど大きなウェイトを占めないというのが特徴的ですよね。つまり、監督ひとりの表現力でどうにでもなる。1年だろうが2年だろうが、できる人はできるし、できない人はできない。もちろん、そのチームとの相性があるから一概には言い切れないとしても。これは世界的に見ても同様で、例えばヨーロッパのトップリーグでも同じ現象が起きています。監督がハマればスタイルなんてすぐに完成するし、それさえできれば財政規模の小さいチームでもビッグクラブに勝てるような組織を作れる。

まったく同感です。僕自身としても、リーグのレベルにかかわらず、現代サッカーで勝利を積み重ねるためにはそういうチーム作りをしなきゃいけない。だから監督交代という決断をしました。

―― そのことに関連して、ひとつどうしても聞きたいことがあります。尹監督の退任発表はどうしてあのタイミングだったのですか?J1昇格の可能性を残している状況で、どうしてそれを発表する必要があったんだろうと思いました。

シーズン限りの退任を発表させていただいたのは「残り8試合」というタイミングでした。納得してもらえないかもしれませんが、もちろんJ1昇格の可能性を残していましたし、自分としてはなんとしてもその可能性を掴んでほしかった。そのために何ができるかを考え、それまでになかった特別な結束力を持つ必要があると考えたんです。

尹監督と3年間過ごしてきた選手たちの“ラスト”に対する思いを力に変えてほしい。そういう願いから、あのタイミングで発表させてもらうことになりました。ただ、残念ながら思っていたような状態、思っていたような結果にはなりませんでした。

―― 個人的な意見としては、鈴木GMの判断に明確な狙いや意図があったらそれでいいと思うんです。リスクを承知で一手打ったのであれば、それは判断する側に権利がある。ただ、この件についてはそれによって「チームの士気が低下するのでは?」と強く感じました。その可能性については?

もちろん理解できます。結果的にそうなってしまったことを考えれば、判断ミスだったと言わざるを得ないかもしれません。ただ、僕らがいるのはプロの世界で、自分の立場から、選手たちには何があってもプロとして意識を低下させない強い覚悟を期待しているし、今、チームに在籍する選手に対して「絶対にそうならない」と期待するところがありました。だからこそ、それぞれのプロ意識に訴えかけることで、それまでになかった一体感を生むきっかけになるかもしれないと。チームはJ1昇格の可能性を残していましたが、現実的にはかなり苦しい状況にありました。だからあの発表は、チームの背中を、あのタイミングで押すための一手として決断しました。僕自身、選手とスタッフに対してそう説明しました。

―― チームの“内部”に対しては、鈴木GMのその判断に問題があるとはまったく思いません。GMとしての権限の中で、ポジティブな可能性を感じるアイデアがあるなら試さないほうがおかしいと思います。ただ、自分が気になるのは“外部”、つまりサポーターに対するメッセージとして正しくなかったのではないかということです。自分の知りうる範囲内での話ですが、発表した瞬間、サポーターの中では「次の監督、誰?」というリアクションが多く見られました。そのザワつきが、ピッチで戦う選手たちにプラスの影響を与えるとは思えなかった。残り8試合で奇跡的な逆転劇を演出しようとするなら、チーム内部の結束力はもちろんのこと、やっぱりチーム外部まで巻き込む一体感が必要だと感じました。

そうですね。言われていることはよくわかります。ただ、あの時の自分の判断も、同じようにチームの背中を押すための一手としてのものだったことは間違いありません。

―― はい。結果論だからどちらが正解かという話ではありません。ただ、鈴木GMの意図を聞けることができるだけでサポーターの皆さんもすっきりすると思います。

ありがとうございます。確かに、もっと積極的に自分の決断についての意図を発信するべきかもしれません。