フクアリのサポーターが「面白い」と感じるサッカーを
―― 話を戻します。つまり、小林慶行新監督の就任は新たなスタイルの構築に向かうための一歩ということですよね。
はい。自分の立場において最も大切な仕事は監督を選ぶことだと思っているのですが、長くこの仕事をしているけれど、それが本当に難しい仕事であることは間違いありません。
―― 本当にそう思います。
ただ、自分の中ではアンテナを張りながら、日々「その時が来たら」というイメージを持って準備をしているつもりです。小林慶行は僕が新潟で仕事をしていた時に選手として在籍していて、頭を使いながらチームメイトを動かすことのできるプレーヤーとしての特長がありました。「きっといい指導者になるだろうな」と当時から思っていました。だから、その後も彼を追いかけて、コンタクトを取り続けてきました。
ただ、現場が違えば、実際にどういう指導をして、選手とどういう接し方をするのかというところまでは自分の目でなかなか見られません。すでに「いい指導者だ」という情報が入ってきていた彼を一度自分の近くに置いて、自分の目でちゃんと確認する必要があると思いました。そうした考えがあってコーチとしてチームに入ってもらうところからスタートしたのですが、この2年間の働きぶりを見て「彼に任せたい」という気持ちは固まっていきました。
―― 監督としての資質を見極めたということですね。
はい。今のジェフを任せられるだけの魅力があると判断しました。
―― この2年間、小林慶行さんはコーチとして主に攻撃面の改善を担当していたという話を耳にしたことがあります。もしもそうなら、得点力が上がらなかったという結果に対して不安を覚える人も少なくないと思うのですが。
まず、コーチ陣の役割分担に明確な攻撃担当という仕事があったわけではありません。サッカーは本質的には守備と攻撃を切り分けて考えられるものではないと思っているので、たとえ“担当”があったとしても、その人ひとりに責任を押し付けるのは違うと思います。
それから、やはり“コーチはコーチ”でしかない。最終的に決断するのは監督であるという事実は、立場の違いとしてかなり大きいことは間違いありません。例えばの話ですが、システムは監督が決めますよね。「攻撃」に重点を起きたいなら前線に人数を割くシステムのほうがいいけれど、コーチにその権限はありません。だから基本的に、監督とコーチは別モノであると考えていいと思います。小林慶行という指導者に“今のジェフに合う監督”としての資質を見いだしたからこそ、指揮権を託したことをご理解いただければと思います。
―― わかりました。では、具体的にはどんなサッカー、どんなスタイルの構築を目指しますか?
シンプルに言えば「主体的に」「攻撃的に」という説明になると思いますが、いわゆる現代サッカーらしさはもっと明確に表現できるようにならなければいけないと思っています。敵陣では前からしっかりプレッシャーをかけて、相手のシステムや戦い方を分析した上で、できるだけ高い位置でボールを奪う方法を表現する。常にゴールまでの最短ルートを探る。ボール保持の局面では、しっかりとボールを動かして、相手の組織を崩して、一瞬の隙を見逃すことなく縦に仕掛ける。
そういうサッカーを前提としながら、選手個々の能力をどのように引き出し、どのように生かすか。そこに小林慶行監督のカラーが出ると思いますし、僕自身も楽しみにしているところです。前提として大切なのは、自分たちにとってのベースとなる戦い方を持ちながら、相手に対する分析、相性によってそれを柔軟に変化させ、その時々の最適な答えをピッチの上で表現することです。そうした部分のイメージは、小林慶行監督としっかり共有できています。
―― 尹監督のサッカーは自分たちが何をするかにこだわり抜いたスタイルでした。それだけじゃなく、相手ごとのキャラクターに対してハメていくという感覚ですね。
そのとおりです。ちなみに、来シーズンの補強に関する僕自身の“動き”は、現時点でほとんど終了しています。編成については小林監督としっかり話し合い、実際に一緒に席について交渉相手と向き合いました。その結果、今までにない大きな手応えを感じることができました。今は、打つ手を打って結果を待っている状態なのですが、小林監督が目指すサッカーをやる上で必要な戦力を揃えられると思っています。