苦しさを乗り越えて、杉山直宏は進化した。
忘れ難い水戸戦のゴールはその象徴だ。
絶対的なキーマン。ラスト2試合への思いを語る。

インタビュー・文＝細江克弥

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会話がもたらしたもの

―― おつかれさまです。

おつかれさまです。動画……。

―― じゃないので大丈夫です。リラックスモードで。

ああ、わかりました（笑）

―― ラスト2試合の超クライマックスですけど、今のメンタリティーはどんな感じですか？

メンタルは……そうですね、やっぱりひとりの選手として優勝争いや昇格争いができる機会ってそんなに多いわけじゃないと思うので……まあ、それを自分なりに楽しんでいる感じではあると思います。

―― 楽しめている？ その感覚はあるんですね。

はい。ギリギリありますね。自分の場合は熊本の時にJ3からJ2への昇格を経験しましたけど、今回はそれ以来という感じで、やっぱり興奮するし、サッカー選手としては幸せなことだよなと。

―― その感覚って、やっぱり戦力としてチームに関われているという実感があるからこそ強く得られるものだと思うんですけど。

うん、そう思います。ただ、個人的にはたとえ試合に絡めていなくても同じような感覚になれると思うんですよね。

―― むしろ、そういうチームであるべきというか。

ですね。たぶん。試合に出ている、出ていないということよりも、毎日のトレーニングで一緒に、本気でやれていればそれだけでも十分に“チーム”になれるというか。もちろんみんながどう思っているかはわからないですけど、僕の場合はそれだけでも“関われている”と感じられるタイプだし、今のチームはみんなが同じ思いで毎日のトレーニングに臨めていると思います。だから、そういう意味での心配はないというか。

―― 昨シーズンの雰囲気ともちょっと違う？

チームがどうこうというより、やっぱり僕自身がぜんぜん違いますよね。昨シーズンは夏に入ったばかりで、自分もみんなを理解できていないし、みんなも自分を理解できていない時間が続いてしまったところはあって。そういう感覚があったからこそ、今シーズンは自分の良さを出して理解してもらおうと意識していたし、それができていると感じるところは大きいです。

―― 確かにその空気感というか、周りとの関係性が昨シーズンとはぜんぜん違うことはプレーを見ていればわかる気がする。

やっぱり、このチームは日頃からのコミュニケーションの量がめちゃくちゃ多いんですよね。単純に選手同士で話す回数が多くて、それによってお互いのことを理解できている気がしていて。考え方は人それぞれだと思うんですけど、個人的には普段から仲がいいほうがピッチ上のプレーも表現しやすいと思うほうで、互いのことを理解していないとどうしても気を遣ってしまうところがあって。今シーズンはそれがなくなって、それが自分にとってはすごくやりやすくて。

―― それもめっちゃよくわかります。

完全に自分の性格的なところなんですけど、関係性が良くないと言いたいことを言えないというか、自分を出せないというか……。言って、言われて、で、初めて理解するみたいな。で、次の機会ではそれを生かせる。そういうところが強いんですよね。

―― なるほど。コミュニケーションによって自分のプレーが良くなったところって、具体的にどんなところですか？

一番はサイドバックとの関係性だと思います。（髙橋）壱晟との関係性。

―― 昨シーズンはそれを作る余裕さえなかったですもんね。

そうなんですよ。そもそも自分がここに来た時に誰も知り合いがいなかったし、自分自身もそんなに積極的にコミュニケーションを取れるタイプじゃないので、その部分にはかなり時間がかかってしまったところがあって。ただ、自分の中では、これでもかなり早いほうだと思っているんです。ジェフはこれまでのどのチームともちょっと違うというか、やっぱり先輩たちがかなりフランクに話しかけてくれる人が多いので、そこを改善しなきゃいけないと自分でも意識していた今シーズンについてはかなりスムーズだったんじゃないかなと。

―― チームとしてのトレーニングに対する意識の高さみたいなものも、コミュニケーションの量や質に影響するのでは？

ああ、それは絶対にあると思います。今のジェフって誰も“外”を向かないじゃないですか。試合もそうだと思うんですけど、やっぱり11人で勝てる試合なんてひとつもなくて、途中から入った選手だったり、ケガや累積警告で出られない選手がいる時に代わりにピッチに立つ選手が活躍したり、そういうことがチーム全体の底力を表すものだと思っていて。

一人ひとりが腐らずに、やるべきことを必死に、真剣に準備した結果でしか、そういうプレーって生まれないと思うんです。今のジェフにはそれがあるし、そこがこのチームのすごいところだと思っていて。