
#101
2025.11.22 Update!!
杉山直宏
―― まさにそういう意味で、今シーズンは“らしさ”をわかりやすく表現できるようになってきた。例えば、キックフェイントひとつでふわっとした時間を作る感じとか。
ああ、そうですね(笑)。昨シーズンはチームとして“とにかく前”みたいなところが強くて、自分もそうしなきゃいけなかったし、まずはそれに対して必死になるしかないみたいなところがあって。で、それができた上での次の段階として、自分の良さを表現するならどこかと考えて。ボールを持った時に時間を作るようなプレーについては、自分が試合に出たならそれを表現するほうがいいんじゃないかと思ったんです。
―― どのあたりかわからないけど、今シーズンの途中からそのバランスを完全に掴んだように感じました。チームとしてやるべきことと、個人として表現すべき特長のバランス。
そうかもしれません。そう言われて思うのは、自分がそのバランス感覚を掴んだというよりも、チームメートのみんなが自分のことを理解してくれたことが大きいんじゃないかと思うんです。例えば、(田中)和樹の生かし方と僕の生かし方ってぜんぜん違うじゃないですか。同じ足下で受けるにしても、僕の場合は和樹よりもちょっと手前にパスを出してもらったほうがやりやすいと感じるタイプで、それをパスの出し手が理解してくれているから違和感がないというか。
―― わかります。この時間帯のこのタイミングではちょっとした時間を作ってほしいから、それならいつもよりボール1個分手前の位置にパスを出してあげればナオがそういうプレーを出しやすいだろうな、みたいな感覚で周りが理解している。だから自分も期待されるプレーを表現しやすい。
はい。そうです。そこがかなり大きいです。僕にとっては。
―― そういう関係性を日頃からのコミュニケーションによって作ってきたと思うんですけど、そうはいっても、シーズン前半戦は出場機会もかなり限られていたと思うんです。そういう状況でどんなことを考えていた?
いや、もう、やっぱり苦しかったですね。シンプルに。「自分だったらこうしたい」「自分だったらこうできるのに」みたいな思いだけ大きくなっていく感じで、そういう時間がそこそこ長く続いてしまって。でも、甲府戦(第6節)で今シーズン初めて途中出場して、バッキー(椿 直起)がPKを獲得したプレーでラストパスを出すことができたんですよね。間接的だったけどゴールに絡めたことが自分の中では大きくて、自分がやってきたことは間違いじゃなかったと思ったし、自信にもなりました。あの試合でいきなり使われて、ゴールに関われたことが、自分にとっては“変われた”というか、流れを持って来られた瞬間だったのかなと思うんですよね。
―― どう“変わった”?
試合になかなか絡めない状況では、それまでだったらチームとしてやるべきことを優先的に考えていたし、やっていたと思うんです。でも、あの時期は「チャンスが来たら絶対に自分を出してやろう」とずっと思っていて、それが結果につながったことが良かった。
―― 出場機会がないからといって、自分のプレーを“チーム”に寄せようとしなかった。
はい。だからこそ自信になりました。それまでずっと苦しかったので。直後のルヴァンカップでもアシストすることができたので、正直に言えば「もっと」という気持ちはありましたけど、でも自分を信じてやり続けることができたし、そのことに自信を持てたからこそ、今度は自分に足りないことと真剣に向き合えるようになったというか。
―― そっか。そういう流れで“足りないこと”に目が向いたんですね。
そうです。自分としては手応えがあったとしても、やっぱりチームとして求めること、チームの一員である自分に求められていることはそれじゃなくて、それこそ守備の部分だったり、ハードワークするところを無視することはできなくて。そのことを改めて強く思ったからこそ、“できないこと”に対する意識は強くなったと思います。
―― 田中和樹選手の長期離脱によって、さらにそこが問われるようになった。
そうですね。そう思います。
―― で、チームが苦しかった時期にそれが見事に表現された。一時期の“呉屋&杉山コンビ”による前半からのハードワークは間違いなくあの時期のチームを救った気がします。
めちゃくちゃ気合入ってましたから(笑)。個人的にも「今ならやれる」という自信があったし、それによって自分自身のパフォーマンスの幅が広がっていった気がします。あの時期は日々のトレーニングでやっていることをそのまま試合で表現できるようになったという手応えがあって、チームに求められていることと、自分にできることと、実際にできていることがようやく合致してというか。そういう感触がありました。それさえあれば絶対にチャンスが広がると思っていたので。