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#034

2018.12.27 Update!!

「向き合う」をやめない。

前田英之 代表取締役

この1年も必ず未来につながる

―― クラブのトップとしての考え方や姿勢は、いただいた言葉でちゃんと伝わると思います。こういうインタビューはどうしても“堅く”なってしまうので、最後に少し前田社長の人間的な部分についても触れておきたいなと。ジェフのトップとして3シーズンを戦いましたが、考え方や人間性の部分で何か変わったことはありますか?

前田僕の人間性なんて、誰も興味ないかもしれませんが……。そうですね……。どういう仕事をやっていても感じることがあるのですが、それこそ、時代劇のように。

―― 時代劇?

前田バン! と勢いよくふすまを開けたら、またふすま、みたいな。そんな状況に遭遇することがよくある仕事だなと感じていて。

―― なるほど(笑)。

前田苦労して本質をつかんだと思ったら、それはまだ表面的なことでしかなかった。その繰り返しです。特に今シーズンは強く感じたのですが、やはりサッカークラブの“強さ”や“魅力”は、お金をかけただけでは、あるいはモノを近代化しただけで上がるものではありません。もっと不安定で、もっと感情的な“人”が集団になって価値を作るしかないという難しさがある。これは改めて痛感しました。ただ、一方で、ふすまを何枚も開けながら、少しずつ本質に迫っているという実感を持つことはできています。それを感じられなければあきらめる、それこそ他の誰かにクラブを託すほうがずっといいと思っていますが、現時点では間違いなく、本当に少しずつかも知れないけれど本質に近づいている。そう感じているからこそ、この挑戦を続けるべきだと思っています。

私自身は労働集約産業の出身で、組織マネジメントの現場をずっと見てきて“わかったような気”になっていました。でも、ジェフに来て、それまでの自分がいかにシステムや機械、秩序に守られて仕事をしてきたかがわかった。やっぱり、不安定で感情的な人間が作り上げる組織をマネジメントするほうが圧倒的に難しいですよね。そこはもう、改めて感じているところです。

前田英之 代表取締役

―― お察しします。でも、そういうことを素直に口にしてくれることが、こちらとしては嬉しいです。「社長も大変だなあ」と同情できるというか(笑)。

前田身近な人からは「やせた?」と聞かれることが多くなりました(笑)。私自身はすべてのファンや地域の方、スポンサーの方にとって、クラブを身近なものにしたいと思っています。そのために、経営者としてどのような情報を発信していけばいいのか、どのようなクラブの雰囲気を作るべきなのか、ひとつひとつの局面にどのように対応すればいいのかについて、いつも頭を悩ませています。

―― 何しろ状況がコロコロと変わりますから、いろいろな難しさがあると思います。どれだけ正しい行動を重ねてもそれが良い結果に直結するとは限らないし、人間だから、誰にだって間違いやミスはあります。それを踏まえて次につなげるしかないのかなと。

前田そういう意味では、今シーズンは個人的にとても反省していることがありまして……。

―― というと?

前田ある試合の直後、敗戦があまりにも悔しくて我を失いかけたことがありました。

―― あら(笑)。

前田未熟なんだと思います。あれ以来、勝っても負けても、自分の気持ちを落ち着かせて現実を見つめることを学びました。辛抱強くなったというか、いろいろなことを受け止められるようになった気がします。そういう意味では、経営者として「勝っても負けても愛されるクラブ作り」が重要であると言いながら、その場その場では目の前の勝利に執着し過ぎていたのかもしれません。

―― プロクラブの経営に携わって、自分自身の中に変化を感じますか。

前田妻からは「変わったね」と言われるんですよ。おそらく、私自身が家で愚痴を言うようになったからだと思います。以前、知り合いのカウンセラーさんに言われたことがあるのですが、愚痴は心の排泄物なんですよね。食べたら排泄するのと同じで、人と関わって心を動かせば、必ず排泄物が出る。それを「絶対に安全な場所」である家庭でブーブー言えるようになったのは、ある意味では健康的な生活を送れているということで、妻としてはそれがポジティブに映っているようで。「そういう部分をちゃんと見せるようになったね」と。

―― 少しやせてしまったし、心のストレスも抱えているけど、人間的な活動としては充実感があるということでオーケーでしょうか(笑)。

前田そういうことになりますが、達成感はまったくありません。重ね重ね、今シーズンの結果については申し訳ない気持ちでいっぱいですし、私自身、ものすごく悔しい。でも、私はこの1年も必ず未来につながると確信しています。だからもっと力強く前に進んで、応援してくださる皆さんの期待に応えたい。悔しさが強い1年だったからこそ、改めてそう強く思いました。