思いは消えない
自分を育ててくれたジェフを、自分の力でJ1に戻す——。
そんな思いで古巣への復帰を決意してから、5年の歳月が流れた。
それでも、悔しさに打ちひしがれた時間は決してムダじゃない。
本当の姿を取り戻しつつある背番号7が、その思いを語る。
インタビュー・文=細江克弥 Interview and text by Katsuya HOSOE
写真=佐藤博之、浦 正弘、小林 靖 Photo by Hiroyuki SATO, Masahiro URA, Yasushi KOBAYASHI
甘かった
1年で上がれると思っていた
一人の選手として、一人の人間としての「佐藤勇人」を育ててくれたジェフを、もう一度、J1の舞台に戻したい。ただその一心でチームに戻ってから、5年もの歳月が流れた。
しかし胸に抱くただ一つの思いは、いまだに果たされていない。敗北という現実と向き合うこと、昨シーズンで5年連続。その瞬間を迎えてグラウンドに顔をうずめ、悔しさに打ちひしがれながら、勇人は心の中で同じ自問自答を繰り返してきた。
どうして勝てないんだ。なんでできないんだ。俺は本当に、チームの力になれているのか?
そんな姿を間近に見て言葉を交わすうちに、ふと、彼が背負う十字架が「重すぎる」と思えたことは一度や二度じゃない。サッカーに勝敗はつきものだ。プロの世界に言い訳は通用しないし、たとえ負けてもムダな経験はない。しかし選手として最もいい時期にある彼のキャリアが敗北の記憶で埋め尽くされてしまうことは、あまりにも痛々しく、残念でならなかった。それでも個人的で主観的なこちらの勝手な思いは、彼と話すたびにあっさりと打ち消されるのである。
勇 人正直に言うと、自分の選択に疑問を感じてしまったこともあります。でも、少し冷静になってからまた考えると、『ジェフが好きだから、また頑張ろう』という気持ちになれる。やっぱり、よく言われますよ。『自分のサッカー人生を大事にしたほうがいい』とか、『もっと楽になれば?』って。
でも、自分にはジェフで何かを成し遂げたいという思いしかないし、自分個人のことなんてどうでもいい。まあ、そこまで言ったら少し大袈裟かもしれないですけどね
だから6度目の挑戦となる2015シーズンも、勇人は背番号7を身にまとってピッチに立つ。5年前から抱き続ける、ただ一つの願いを実現するために。
3年ぶりの古巣復帰を果たしたのは、2010シーズンの開幕を控えた1月のことだった。
勇 人自分たちが出て行ったことでチームがガラリと変わり、結果的にはJ2に降格してしまった。だから、後ろめたさもあったのかもしれませんね。チームもすっかり変わっていて“お客さん”みたいな雰囲気もあったから、周りのことを気にしながらプレーしていた気がする。ただ、時間を重ねるうちに考え方を変えました。自分はこのチームで結果を残してきた選手なんだから、気を使うのはおかしいって
久々とはいえ、“ホーム”でプレーすることの心地良さはすぐに感じられた。チームにはJ2では圧倒的と言えるほどの戦力があり、どのチームと対戦しても負ける気がしない。ボールを保持し、主体的に攻撃を仕掛けるスタイルは久々に感じることができた喜びでもある。ただ、どれだけボールを支配しても、結果がついてこない。理由が分からないままシーズンが終わり、「1年でJ1に」という目標はあっさりと打ち破られた。
勇 人甘かったんです。1年で絶対に上がれると思っていたし、1年待てばまたJ1でプレーできると思っていた……
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