エースの覚悟
かつて数々の最年少記録を打ち立てたストライカーの、
眠っていたフルパワーがようやく目覚めつつある。
ジェフのエースは、森本貴幸—。
そう胸を張って言えるキャラクターではないが、
その自覚は、指揮官の指導によって確実に芽生えている。
※取材は2月12日に行いました。
インタビュー・文=細江克弥 Interview and text by Katsuya HOSOE
写真=浦 正弘 Photo by Masahiro URA
本当に、何も、受け入れる事が出来なかった。
── キャンプはいかがですか? ケガもあって、少し別メニューでの調整が続いたよう ですが。
森 本ケガは軽いので問題ありません。明日からのトレーニングには合流できると思います。
── チームの始動から、もう1カ月近く過ぎました。オフはどのように過ごされていたのでしょう?
森 本昨シーズンのプレーオフで負けたショックからなかなか切り替えられなかったんですけど、オフは普通に、家族とゆっくり過ごしました。
── 昨シーズンのJ1昇格プレーオフは非常に厳しい結果になりました。あの試合についてはどのように受け止めていますか?
森 本いや、もう、単純に悔しくて……それしかないですね。あの試合が終わってから一週間くらいは、本当に心ここにあらずという感じでした。自分でも何を考えてるのか分からないくらい、ずっとボーっとしていました。
── あの試合は本当に、1点が遠いと感じた90分間でした。
森 本最初から堅い試合になるとは思っていました。この1試合ですべてが決まるという特別な雰囲気もあるから、今までやってきたことがそのまま表現できるとも思っていなかったですし。ただ、失点するまでの時間帯ではウチもチャンスを作れていたので、そういう展開が続けば良かったですけど……。失点してからはモンテディオ山形がうまく守りに入ったので、そこを崩し切れなかったことが悔しい。内容がどうこうではなく、結果が必要な試合だったので、相手をこじ開けられなかったことがとにかく悔しかった。
── やはり、「特別な雰囲気」であると感じたんですね。
森 本そうですね。自分たちのホームであるフクアリ(フクダ電子アリーナ)とは全く違って、スタンドとの距離感も違いましたから。ただ、(J1昇格)決定戦という雰囲気もあったし、重要な舞台であるという緊張感はありました。そういう中で、自分たちがいつもより硬くなってしまったところはあると思います。いつもならパスをつないでいたところでロングボールを蹴ってしまったり。でも、そういう展開になってしまうことも分かっていたので、その中でもゴールを決めて、絶対に勝つんだという気持ちでやっていました。運もあると思いますけど、やっぱりショックでした。
── これまでのキャリアの中でも、特別な悔しさを感じた試合だったのではないかと思います。
森 本はい。プロになってから一番悔しかった試合です。負けたショックで一週間もボーッとしたことはないし、試合終了直後も全く現実を受け入れられないでいました。「オレ、負けたんだ……。あれ? どういう試合だったんだっけ? どういうプレーしていたんだっけ?」という感じで、本当に何も受け入れられない状態だったんだと思います。
── 試合終了直後は、グラウンドに倒れることもなく、真っ先にサポーターのところに向かう姿が印象的でした。その記憶はありますか?
森 本あります。ただただ申し訳なくて、勝手に足が動いていたような、そういう感覚だったと思います。
── もしかしたら、今もまだ完全には切り替えることができていないかもしれませんが……。
森 本いや、ある程度は切り替えられたと思いますよ。ずっとあんな状態ではいられないし、次に向けて気持ちを切り替えなきゃいけないと思ったので。あれから一週間くらい経って、少しずつ時間が解決してくれました。だから今は、今シーズンのことに集中しています。
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